宵の朔に-主さまの気まぐれ-

母が関わってきたとなると、やっぱりなという思いはあった。

また輝夜は幼い頃に出奔したため母に対する愛情は人一倍深く、言われたことは絶対に守るし違わないと固く誓っていることは本人からも聞いている。

そんな母と約束を交わしたともなれば、それを打ち破るのは――柚葉しか居ない。


「…というわけで、輝夜を揺り動かすことができるのは柚葉しか居ないという結論に至った」


「輝夜さんって極端ね。柚葉がどうしたいかですって?それはあともうちょっと時間をちょうだい」


百鬼夜行から戻った朔は、風呂から上がって皆で朝餉を食べて、自室で凶姫に切なげに息をつかれて髪を拭きながら目を瞬かせた。


「時間って…何が?」


「私と朧さんで柚葉を教育してるのよ。あの子知らないことが多すぎて本当に驚いたわ。処…生娘だっていうのは本当ね」


一体なんの教育をしているのか――訊いてみたかったが、きっと訊かない方がいいと何故か理性が警鐘を鳴らしたため、朔は朔で楽しみにしながら帰ってきたこともあり、両腕を広げてにっこり。


「ところで俺と何か約束してなかったっけ?」


「約束って?」


「帰ってきたら私を抱いてね、とか言われた気がする」


柚葉のことで頭がいっぱいだった凶姫はそこではっとして朔に肩を落とされて思い切りしょげられて焦りまくりながらその胸に飛び込んだ。


「じょ、冗談よ!ちゃんと覚えてたんだから!忘れてたりしてないんだから!」


「…お前は嘘が下手だな。もういい、眠たいから寝る」


完全にふてくされてしまった朔は一度だけぎゅっと凶姫を抱きしめて床にごろんと寝転がって背を向けてしまい、一緒に布団に潜り込んで今度は背中に抱き着いた。


「ごめんなさい!朔、私の話を聞いて」


「…」


「私たちはもう盤石でしょう?でも柚葉は違うわよね?まだこれからお付き合いするわけでしょう?夫婦になるかも分からないでしょう?私たち…柚葉たちをくっつけたいわよね?だから応援してあげたくて…ごめんなさい…」


「……お節介め」


寝返りを打って凶姫と向き合った朔は、それでも交わした約束は輝夜と同じく違えることのない男。


「じゃあ、頂きます」


「え?え??」


にっこり笑顔で肉食獣が牙を剥く。