宵の朔に-主さまの気まぐれ-

朔の腕前は休んでいた間に格段に上がっていた。

日々百鬼夜行に出て研鑽を積む時間もなかった朔にとってはゆっくり自身と向き合って瞑想して、身体を動かすことがなくとも潜在能力は少しずつ引き出されていっていた。


「兄さん、切れ味がすごいですね。身体が鈍るどころかさらに俊敏になったのでは」


「うん、身体が軽いのは確かだな。ぎん、俺と手合わせするか?」


「冗談を言うな。お前の敵は目の前にうじゃうじゃ居るぞ」


うじゃうじゃと表現された反勢力集団の妖たちは、先頭の朔はもちろん神出鬼没の弟までもが復帰していることに悲鳴を上げていた。

何故か朔が姿を見せくなった間に勢力を広めてやろうと息巻いたものの、朔の代わりに先頭を行く男が冷酷冷徹無慈悲の先代だと分かってどれだけ絶望したことか。


「とりあえずあれらを粛正した後、ちょっとふたりで話したいことがあるんだが」


「ええ、いいですよ。なんだろう、楽しい話だといいなあ」


――ところが、銀が後方に行ってふたりきりになった時朔が口を開いた話の内容に輝夜は顎に手をあてて完全に困った表情になっていた。


「私がおかしいとは一体なんですか、失礼な」


「いや、お前は必要以上に柚葉を構っていただろう?清い付き合いから始めるっていう話は聞いたけど、お前の言う清いとはなんなのかと思って」


兄に隠し事はしない。

今まで自分が旅をしてきた果てにどんな救済をしてきたかを洗いざらい話していた輝夜は、昨晩母の息吹に半ば無理矢理約束させられたことをつらつらと話した。


「母様が祝言を挙げるまでは手を出すなという趣旨の話をしてきたので、兄さんの件もありますし、私は人の道理を間違わぬようにせねばと思いまして」


「なんだそれは。俺が祝言前に芙蓉に手を出したから、お前はそんなことはするなよということか?」


「まあそんなところでしょうね。しかも子までできたとなれば、人として生きてきた母様としては驚天動地の出来事だったでしょうから」


思わず苦笑した朔は、少し強い風に髪をなびかせながら腕を組んではにかんだ。


「それは俺のせいだな。申し訳ない」


「いえいえ、私も気を急いてはいけないと思っていたのでいいんですよ」


輝夜はいいとしても、柚葉は違う気がする――

真面目な弟が満足そうに語る様に、悪戯好きな兄がにやり――