宵の朔に-主さまの気まぐれ-

朔たちの姿が見えなくなるまで見送った凶姫は、居間の片隅で息吹と茶を嗜んでいた柚葉の隣に座ると、頬を膨らませて怒った。


「柚葉。どうしてちゃんと見送ってあげないの?」


「ちゃんとここから見送りましたよ。息吹さんのご飯が美味しくてついうとうとしちゃってましたけど」


「ふふふ、柚葉ちゃんったらお世辞が上手なんだから。じゃあ私は後片付けとかあるから何かあったら声をかけてね」


十六夜と息吹は明日ここを離れる予定でやることが多いらしく、ふたり居間に残されて静まり返った。


「…毎日こうして見送らなきゃいけないのよね?」


「そう…ですね、姫様は」


「何よ、あなたまだ出て行くつもりなの?それは絶対させないんだから。それより柚葉。私はとうとう手に入れたのよ。これであなたにもきっちり教えてあげられるわ」


「え?手に入れたって何をですか?」


すると音を立てて急に襖が開いて驚いた柚葉は、何故か超笑顔の朧が現れて首を傾げたが、朧と凶姫はにまにまして気持ち悪いことこの上なかった。


もう、嫌な予感しかしない。


「朔の部屋にも輝夜さんの部屋にも雪男さんの部屋にもなかったの。あの人たち本当に男なのかしらって疑っちゃったわよ」


「兄様たちには必要ないんですよ。ですが!柚葉さんのためならと極秘裏に手に入れてきましたから!」


「おいおい、なんか物騒な話してないか?俺も混ぜろよ」


庭でかがり火をつけていた雪男が参加を申し込むと、凶姫たちはそろってあっさりと首を振った。


「悪いけれど男子は参加できないのよ。柚葉…あなた覚悟しなさいよ。分からないとか絶対言わせないんだから。私と朧さんがきっちり教えてあげるから!」


「え?え!?な…何を!?」


悲鳴を上げる柚葉を引きずるようにして凶姫たちが連れ去って行く。

ぞわっと寒気を覚えた雪男、首をふるふる。


「俺は何も見なかった。何も見てない」