宵の朔に-主さまの気まぐれ-

凶姫も柚葉も、朔と輝夜がこれから毎夜百鬼夜行に出ることに関して一抹の不安を覚えていた。

これが家業――朔はそうきっぱりと言ったが、百鬼夜行の主とは常に命を狙われる危険がつきまとう。

何せ同族殺しに値するのだから反勢力も当然あるし、人を食って殺してしまう系の妖には何かといっては目の敵にされて、大規模な戦闘になることもしばしばあるのだ。


「ねえ朔…本当に行くの?」


「もちろんそうだけど…芙蓉、俺はこれから毎日こうして出かけて行くんだ。留守の間は雪男がお前たちを守ってくれるし、何も心配ない。そんな顔をされると出て行きにくくなる」


――明らかに不安がって唇を噛み締めている凶姫をふんわり抱きしめた朔は、目が見えるようになって見つめ合ったりするのを避けられ続けていたが、まっすぐ見据えてきた凶姫の頭を優しく撫でた。


「…童扱いしないで」


「してない。どうしたの、どうしてほしい?」


夕暮れが近付いて来て庭には百鬼が集まりつつあり、朔が復帰すると聞きつけてすでに盛り上がりつつある庭から聞こえる声は凶姫にも聞こえていた。


行かないで、と言いたいけれど、それは朔たちの家業を否定することになる。

人と妖の懸け橋となる――それを信条に彼らは日々命を狙われても心が痛んでも、前を向いてやってきているのだから、こんな甘えた考えを持っていると呆れられるかもしれない――


「…早く帰って来てね」


「うん、終わり次第すぐ帰って来るから」


朔を見上げた凶姫は、目元を緩ませて微笑んでいる朔の儚くて憂いを帯びた美貌に頬が熱くなってむぎゅっと抱き着いて顔を隠した。


「帰って来たら…私を抱いてね?」


「え……どう…したの」


急に求められて思わず言葉に詰まった朔は、力を込めて凶姫に抱き着かれて骨が軋むのを感じながら笑って背中を撫でた。


「どうもしないわよ。ふ…夫婦になるなら当然のことでしょう?」


「ん、そうだな、そうだった。芙蓉、腹を冷やさないようにちゃんと着込むんだぞ。そろそろ冷えてきたから」


「はい」


頬がゆるゆる緩む。

こんなことでは百鬼に示しがつかないと表情を引き締めた朔は、凶姫の手を引いて部屋を出た。