宵の朔に-主さまの気まぐれ-

柚葉の店は繁華街の大通りから一本外れた道にあり、寂れてはいないがそこそこ落ち着いた雰囲気があった。

不審な店はないか目を光らせながら歩いていると、凶姫は朔の袖をずっと握ったまま同じようにきょろきょろしていた。


「この通り…なの?」


「番地はそうだな。ああ、あった」


反物屋の隣の空き家がそうだと聞いてはいたが…それなりに古びれている。

建物は恐らくしばらく住む者が居なかったため朽ちている部分もあり、そこについては口出しせざるを得なかった。


「ぼろいな」


「これは改築する必要がある。…柚葉はなんていうと思う?」


問われた凶姫、きっぱり。


「自分で直すっていうんじゃないかしら」


「それは駄目だ。怪我する」


「あなたって…柚葉にほんと過保護なのね」


またやきもちをやく凶姫の肩を抱いて笑った朔は、空き家を検分しているのを反物屋の主人に見つかって慄かれて笑いかけた。


「店主。この空き家について訊きたいことがある」


「こ…これは主さま!な、なんなりと!」


「柚葉という娘が借りたいと言ってきたと思うが、この空き家…少し古くはないか?」


「もう十数年も空き家なもので…。あ、あの、直しておきますから!」


「いや、それはいい。改築していいのならこちらでしたいんだが、構わないか?」


「はい、それはもう!」


交渉成立。

またにこっと笑いかけた朔の輝かんばかりの笑顔にぽうっとなった店主が鍵を使って空き家の中に案内してくれたが、全員そろってぽつり。


「ぼろい」


「こりゃ改築のし甲斐があるってもんだな。後はなんとかして柚葉を説き伏せないと」


やはりここに住まわせるわけにはいかない。


朔たちが何やら空き家を見ていると知った住人たちの数が増えてきたため、その場を後にしたが――


問題は柚葉の説得。

頑固な一面があるため、どう説き伏せようかとああでもないこうでもないと言いながら屋敷に戻り、柚葉を呼び出した。