宵の朔に-主さまの気まぐれ-

椿を弔う場所は、予め十六夜と相談して決めてきた。

代々朔たちの家系の者が眠っている場所からそんなに程遠くない縁者が弔われている一角に場所を用意して、大八車から椿の躯を抱き上げて掘られた土穴の上に置くと、晴明が静かに念仏を唱え始めた。


「あなたは家族同様に大切でした。もうあなたを惑わせる者は居ない。師匠…どうか安らかに」


百鬼たちが躯に土を被せてゆく。

朔の隣でじっとそれを見ていた凶姫は、心の中でずっと朔と同じように椿の安眠を願っていた。

自分などに願われたくはないだろうけれど、朔を心から愛した気持ちを無下にはできない。

あなたの分まで朔を大切にして愛してゆく――そう誓って願い続けていた。


「よし、済んだな。じゃあ次は黄泉と冥だな」


実際問題彼らに感慨は抱いていないが、打ち捨てて野ざらしにするほど恨んではいない。

柚葉から彼らの経緯を聞き、その思いは余計に強まってしまったから、墓地の片隅ではあるがふたりをひとつの墓に埋葬することにした。


「朔、私は‟渡り”たちは弔わないわよ」


「うん、俺もそう時間はかけない。すぐ行くから牛車に乗ってて」


晴明に手を引かれて牛車に乗り込んだのを見届けると、朔は土穴に横たえさせた黄泉たちを見下ろして小さく呟いた。


「正直言ってお前が芙蓉にのみ猪突猛進したのは助かった。気付いていたか?あの屋敷には…お前の仲間が居ることを」


屋敷の地下にて、ずっと愛する男を待ち続けるあの美しい女を。


「主さま、これが終わったらどうする?」


「柚葉が商いをやろうとしている空き家に行く。お前もついて来い」


埋葬を終えると、朔は墓地の外に止めていた牛車の御簾を上げて凶姫に手を差し伸べた。


「散歩がてら歩いていかないか?ここからそんなに遠くないから」


「ええ。朔…手を繋いでいてくれる?」


「いいよ。行こう」


「おいおい、見せつけるなよな」


雪男が茶化してにやにやすると、朔は凶姫を下ろして同じようににやにやした。


「そういえば最近朧がぼやいていたな。‟一緒に出掛ける時間が減って寂しい”って。俺が溺愛する妹を寂しがらせると離縁させてやるからな」


「はい来た脅し文句!分かったよ今度どっかに連れて行くから離縁は勘弁!」


雪男という最強の護衛を伴って再び幽玄町の繁華街へ。