宵の朔に-主さまの気まぐれ-

幽玄橋からこっち側の川は妖と住人たちの手によってきれいに整備されているため、川の透明度は驚くほど高く澄み渡っている。

朔たちは川沿いにある甘味処の大きな野天傘の下で緋毛氈に座り、運ばれてきたあんみつを口にして目を輝かせていた。


「美味しいっ」


「ん、美味いな。ところで芙蓉、この後俺は黄泉たちを埋葬しに墓地に行くんだけど、ついて来る?」


「…いえ、私は行かないわ。椿さんは私なんかに弔われたくないでしょうし」


「そう言うとは思ってたけど」


「第一私はあの人に嫌われていたし、私が立ち会ってまた祟られるなんて冗談じゃないわよ。あなたにとって椿さんは大切な人でしょう?さっさと行って来たら?私はひとりで帰れるから」


つんと顔を背けた凶姫が怒っていることに気付いてはいたが…それよりも、口の端についているあんこが気になった朔は、もそっと距離を詰めてぴったりくっつくと、顔を覗き込んだ。


「なんだ、やきもち?」


「……」


返事をしない凶姫の口の端についているあんこを顔を寄せてぺろりと舐め取ると、凶姫は驚きすぎて硬直してしまい、朔はそれをいいことにぺろぺろし続けた。


「ちょ…っ、ななな何をするのよ!」


「師匠は確かに最初の女だけど、お前は俺の最後の女だ。そして俺はお前にとっても最後の男になる。過去のことは否定できないけど、今を大切にしたい」


「わ、分かったから!分かったから舐めるのをやめて!」


「お前は美味いな。もっとあんこ塗ってもいい?」


「だ、駄目よ!馬鹿!変態!みんなが見てるわよ!」


「見たい奴には見せとけばいい。芙蓉、一緒に帰ろう。そして母様たちと料理を作って俺に食べさせて。今夜から百鬼夜行に復帰するからずっと一緒には居られなくなる。だから一緒に居たい」


――朔がずっと屋敷に居ることが当然のようになっていたが、それは違う。

夜は百鬼夜行に出て朝方まで戻って来ない――それが彼の本来の日常だ。


「朔……」


意識して避けている場合ではないのだ。

接する時間が極端に少なくなる――


焦りを覚えて、朔の腕に抱き着いた。