宵の朔に-主さまの気まぐれ-

いや、むしろこんなきれいな男が往来を歩いていて無視できるはずもない――

開き直った凶姫は、朔の手を引っ張って小間物屋の前で顔を輝かせた。


「化粧道具が欲しいの」


「化粧?だから顔が派手だからしなくても…」


「いいえ!女のたしなみよ。息吹さんから頂いたものがあるけれど、そろそろなくなりそうだから…買って?」


おねだりをされて悪い気分ではない朔は、軒先で様子を窺っていた店主に声をかけた。


「入っていいか?」


「え、ええどうぞ!」


…店内に居た客たちが我先にと外へ出てしまい、貸し切り状態になったのはまあいつものことだとしても…皆、外でこちらを見ている。

開き直った凶姫はその視線もまるっきり無視して白粉や紅を手にとってはしゃいでいた。

…こちらはこちらでとびきりの美女。

しかも目が光に反射してきらきら輝いていて、男らはとろけるような目で凶姫を見ていて朔は若干それに対してむっとしていた。


「そろそろ行こう」


「じゃあこれとこれを」


ここでも代金の受け取り拒否をされて先程のやりとりをすると、凶姫は両手で口を覆って笑っていた。


「ふふ」


「母様は偉大だな」


「朔、私今とっても楽しい」


「ん、それは良かった。俺もお前が心から笑ってくれて嬉しい」


目が潰れそうな男女が見つめ合い、外で様子を見ていた面々が一斉にほう、とため息をつく。

現当主が連れている女はきっと妻になる女に違いない――

その噂はあっという間に幽玄町内に広まるのだが、朔は買ったものを巾着に入れて嬉しそうにしている凶姫の手を握って往来に出ると、息吹のお使いを終えて顔を見合わせた。


「どこに行きたい?」


「お腹が空いた気がするわ」


「じゃあ甘味処に行こうか」


――こんな風に好いた男と町を歩けるなんて。


うきうきしながら甘味処に向かう彼らの少し後ろを護衛のため歩いていた雪男、にやにや。


「青春だなあ」