宵の朔に-主さまの気まぐれ-

両親が旅に出ること自体は随分前から聞いていた。

そうなると次に再会できるのは十数年…数十年単位であり、それは朔たちにとってはあまり喜ばしいことではなかった。


「やはり…旅に出られるのですか?」


「役目に随分長い間縛られていたからな。羽休めというところだ」


「ですが大陸に渡るのでしょう?父様はともかく母様が危険な目に…」


「互いに領域を侵さなければどうということはない。…なんだお前たち、寂しいのか?」


言い当てられて押し黙った兄弟に息吹は少しの寂寥感を抱いて十六夜の腕に抱き着いた。


「私のことは大丈夫だよ、心配してくれてありがとう。ちゃんと十六夜さんが守ってくれるから。ね?」


「…ああ」


「そうですか…。解放感でもしかしたら弟か妹が増えるかもしれませんね」


朔が冗談を言うと酒を飲んでいた十六夜の耳が赤くなり、息吹はさらに顔を赤くさせる爆弾発言。


「うんそれもいいね。朧ちゃんがお嫁さんに行ってすごく寂しがってたからもうひとりやふたり位…」


「う、うるさい!ゆっくり飲ませろ!」


父が極端な照れ屋で、それは母にしか見せない顔だと知っている朔たちは、微笑ましく思いながら腰を上げた。


「じゃあ俺たちは失礼します。雪男、お前も今夜は家に戻れ」


「ああそうするよ。じゃあな」


居間にふたり残された十六夜と息吹は、顔を見合わせて小さく笑うと、ふたりで盃を持ってかちんと合わせた。


「…健全な付き合いとはなんだ?」


「祝言を挙げるまでは手を出さないとか?輝ちゃん真面目だから多分ちゃんと守ると思うよ」


「そうだな…。息吹…お前はどこに行きたい?」


「私?どこでもいいよ、どこに連れて行ってくれるの?」


「…そうだな……」


肩を寄せ合って思いを馳せる。

別れの時は、近い。