そして朔は、柚葉がここを出て行かないように皆で説得をしたいという旨を凶姫に話した。


「そうね、私もできるならここで柚葉と暮らしていきたいの。あの子…輝夜さんとどうなったの?」


「両想いになったらしい。もしかしたら柚葉が輝夜の嫁になるかも」


「え?!ほ、本当!?おめでたいことだわ!それに輝夜さんのお嫁さんなんて素敵…!」


ちょっとむっとした朔は、凶姫の身体が冷えがちなため血行が良くなるように指を摩ったり揉んでやったりしながら意地悪げに笑った。


「でもお預けを食ってるって嘆いてた。まだそういう関係にはならないって言われたみたいだけど」


「どうして?障害なんて何もないじゃない」


「そこをお前から遠回りに訊いてみてくれないか?改善できることならこっちで何とかしてやろうと思う」


「そうね、女同士だから口が滑らかになるかも。そこは任せておいて」


頼もしげな返答に朔が凶姫の頭を撫でていると、輝夜が柚葉を伴って居間に入ってきた。

まだ朔の膝の上に居た凶姫が咄嗟にどんと突き飛ばして朔から離れると、突き飛ばされた朔はそのままこてんと寝転んで柚葉に慌てて駆け寄られた。


「主さま大丈夫ですか!?」


「ん、大丈夫。柚葉、店を開くって言ってたけどまだその決心は変わらないのか?」


突然店の話をされてきょとんとした柚葉は、自室の半分以上を作った着物や小物で埋め尽くされているのを思い返して頷いた。


「ええ、夢ですから。あと身請け代を主さまに少しずつお返ししようと思ってます」


「そこは気にしないでほしいって言ったと思うけど」


「いけません!そういうのは筋を通さないと私が納得いきませんから」


決心は固い。

しかし朔も輝夜も凶姫も、誰ひとりとして柚葉をここから出て行かせようとは思っていない。


「突然なんなんですか?」


「うん、ちょっと訊いてみただけなんだ。ああほら、母様の料理ができたらしい」


息吹や山姫たちが次々に食卓に料理を並べていく。

起き上がった朔は、どう説得しようかと考えながら更けてゆく空を見上げた。