宵の朔に-主さまの気まぐれ-

何か固いものが掌に押し付けられた。

盲目の凶姫はそれがなんだか分からず、掌に乗っているふたつの固いものを指で触ってただただ首を傾げていた。


「柚葉…これはなんなの?」


「それは…姫様の目ですよ」


「…え!?」


――もう戻ってこないと思っていた、黄泉に奪われた両目が…?

喜びよりも圧倒的に驚きが勝って固まっている凶姫の肩を抱いた朔は、その宝石のような赤いふたつの石を見て頬を緩めた。


「これがお前の目なのか?赤くて美しいな」


「ほ、本当に私の目なの…?」


凶姫の長くてさらさらの髪が肩から零れて表情を隠した。

黄泉はそんな凶姫を見つめながら痛みを堪えて半身起き上がると、つらそうに息を吐いた。


「お前の目で間違いない。こんなことになるなら早々に壊しておけばよかった」


「だができなかったんだろう?お前が愛した女だから」


――そう問われると…なんだかそれは違う、と思った。


凶姫のような美しい傀儡を作りたい――

冥を作った時は、愛した女を生き返らせたい一心で作ったため、理想の傀儡を作りたい、ということではなかった。


そういう点で自分は凶姫に執着していたのだ、と悟った。

以前愛した女に抱いた想いを凶姫に抱いているとは、到底思えなかった。


「とんだお門違いだな。俺は芙蓉のような傀儡を作りたかったんだ。傀儡ではなくそんな美しい女が存在するのだな、と感嘆して理想と定めて執着した結果がこれよ。…つまらん結果になったが」


「…これは返してもらうぞ」


「構わんが、俺と冥をここから生かして逃がせ。それが条件だ」


冥は目を見張った。

主は単独で逃亡するものと思っていたから。


「主…」


「冥、今度こそはちゃんと両腕をつけてやるからな。次はもっと補強しないと」


――凶姫は、黄泉が話す度に今までの日々を思い出してしまって恐怖で身体を震わせていた。

両目が戻って来た喜びよりも遥かに遥かに――


憎しみが勝り、目を両手で包み込んだまま、動けなかった。