宵の朔に-主さまの気まぐれ-

ぐにゃり、と空間が歪んだ。

万が一のために朔は刀を抜いて凶姫を背に庇いながら歪んだ空間に近付いた。

すると――


「ぐ…ぅっ!」


「!黄泉…!」


まるで放り出されるようにして地面を転がった黄泉の姿は胸に大きな切り傷があり、全身が浅い傷で切り刻まれていて、もはや息も絶え絶えの状態だった。


「主…!」


「動くな。お前はそこに居ろ」


雪男に牽制されて動けなかった冥は、大量の出血でかなりやつれた表情をしている黄泉を見て、命があることに安堵しつつもその場から動けず焦れていた。


「輝夜は…柚葉はどうした!?」


「…ふん、盛ってるんじゃないのか」


「なんだと?どういう意味…」


詰問しかけた時――まだ歪んだままの空間の奥から何やらぎゃあぎゃあと忙しない声。


「大体鬼灯様は自分から女を求めたことがないっていうのが売り文句でしたよね?なのになんで私にちょっかいかけるんですか!」


「いやだなあお嬢さん、私に全部言わせたいんですかあ?」


「全部も何もあなた私が好きじゃないでしょ!そういう軽薄な方とはそんな関係にはなりませんから!」


「約束は約束ですよね?お嬢さんさっき私に告白しましたよね?」


「!ゆ…夢でも見てたんじゃないですかっ?」


「お、おい……」


朔が間に入れないほどの勢いで痴話喧嘩をしているふたりが、ゆっくり姿を現した。

輝夜は無傷――

だが、柚葉の恰好は……


「柚葉!お前…どうしたんだその恰好!」


「あ、主さま………きゃあっ!」


はだけたままの胸が露わになっていて、朔が視線を泳がし、輝夜が柚葉を自分の方に向けてむぎゅっと抱きしめてそれを隠した。


「兄さん今浮気しましたね?」


「俺は何もしてない。ちょっと…見ただけだ」


「み、見たんですか!?」


「見たんじゃなくて、見えたんだけど…ごめん」


凶姫にも背中をつねられて板挟み状態になってしまった朔だったが、倒れ込んだままの黄泉の動向だけは注視していた。


冥が今にも駆け寄らんとしているのを雪男が押さえ込んでいたが、朔は凶姫の手を引いて輝夜たちの元に向かった。


「姫様、お土産があるんです」


「え…?」


柚葉に着ていた羽織を巻き付けていた凶姫が首を傾げる。

柚葉は満面の笑みで、凶姫の手を握った。