宵の朔に-主さまの気まぐれ-

朔は考えていた。

輝夜は常に理性的で血を好まず、温厚な性格の男だが、柚葉が目の前から居なくなって何かが変わったように見えた。

自ら行動すると言い出したのも、はじめてのことだったかもしれない。

今頃黄泉と対峙して――いや、もう殺そうとしているかもしれない。

輝夜は幼い頃からもし自分が当主として不適合だと言われた場合、次なる当主候補だったのだが、これを頑として断り続けた経緯があり、殺生をしたくないという思いもあったに違いないのだ。


「芙蓉…もし輝夜が黄泉を生かしたまま戻ってきたらどうする?」


「え?……」


押し黙る凶姫が葛藤する気持ちも十分分かるのだが、柚葉がどう思うかということも考えた。

柚葉もまた殺生が苦手であり、血を見ただけで青ざめてしまうような繊細な心の持ち主だ。

以前から感じていたことだが、柚葉は母の息吹に性格がとてもよく似ているため、もし黄泉と言葉を交わす機会があるならば――黄泉は柚葉を殺さないかもしれない。


ふたりにはそういった不思議な力があるのだから。


「輝夜は黄泉を生かしたまま連れ帰って来る可能性がある。だが黄泉はお前の全てを奪った男だから、処遇はお前に任せたい。どうしたい?」


「………」


また返事はなく、ぎゅうっと眉根を絞って唇を噛み締めている様子は、余程葛藤しているのだろう。

朔はまた動かなくなった冥を一瞥して凶姫の元に戻ると、優しく強張っている手を握った。


「あいつらは多分大丈夫だ。冥の話では黄泉はまだ生きているらしいし、ふたりが戻って来るまでにどうしたいか考えをまとめてほしい。芙蓉、お前の気持ちを最優先に考えたい」


「……分かったわ」


か細い声で返事をした凶姫を抱き寄せた朔は、固唾を呑んで事態を見守っている雪男たちを見回した後、倒れ伏している椿を見つめた。


埋葬してやらなければ。

死ぬほどまでに愛してくれたこと、またその境遇――椿は生まれながらに不遇な人生だった。

せめて自分だけは、椿を生涯弔い続けてやらないと浮かばれない。


「主さま、動くぞ」


雪男が警戒した低い声色で声をかけてきた。

輝夜が消えて行った辺りの空間が歪む。


彼らが、戻って来る。