宵の朔に-主さまの気まぐれ-

「鬼灯様、これを見て下さい」


それまで壊れないように後生大事にずっと持っていた凶姫の両目を輝夜に見せた柚葉は、目を輝かせて赤い紅玉を見つめた。


「これ、姫様の目です。さっき黄泉さんから見せてもらったまま私が持っちゃってるんですけど…これもらっちゃっていいのかな…」


ちらりと黄泉に視線をやると、黄泉は大量の出血で真っ白な顔をしていたが、軽薄な笑みを浮かべてどこまでも果てのない上を仰いでいた。


「くれてやる。だが俺たちが生きたままこの国を出るという保証があればの話だが」


「いいでしょう、私から兄さんに話をつけておきます。その前に…」


――凶姫の目に夢中で無防備だった柚葉の腰に手を回してぐいっと抱き寄せた輝夜は極小の結界を張って黄泉に見えないようにすると、ぽかんとしている柚葉ににっこり笑いかけた。


「さっき私のことを好きと言いましたね?」


「え…い、言いましたっけ…?聞き間違いじゃないですか?」


「ふふふ、お嬢さん、ちゃんと聞こえていましたよ。ということはつまり無事にここから出て戻ることができて全て解決できたら、私との約束を果たせるということですね?」


「や、約束?私にはなんのことだか…」


優しく顎を取って上向かせた輝夜は、朔のように目の中に星のような妖気を瞬かせて柚葉を見惚れさせながら、畳みかけるように極上の笑みを見せた。


「我が家の者は皆溺愛体質ですから、私に愛されたらそれはもう兄さん以上の溺愛体質だとここに宣言しておきますよ。覚悟して下さいね」


「その前に鬼灯様は私のことを…その…す…好きなんですか?」


「私の秘密を知っているあなたが私にそれを訊くんですか?これは多分…」


――制約に縛られた身の上で使ってはならない力を行使した結果、鬼灯の色は青くなってしまっただろう。

つまりそれは、朔の問題が解決したならば、ここを離れなければならないということだ。

生まれる前から欠けているものがあると知っていた。

それがようやく我が身に戻って来ると思っていたが――それはもう致命的にあり得ないこととなってしまった。


「とりあえず戻りましょうか。きっと兄さんも凶姫も、とても喜んでくれますよ」


柚葉の問いには答えず、すっと離れた。

この可憐な人とも別れなければならない。

また胸が妙な音を立てた。