宵の朔に-主さまの気まぐれ-

朔に自分の救出を頼まれてここへ来てくれたのならまだ分かる。

それをまず確かめなければと思った柚葉は、黄泉がまだ動けないのを確認して袖を強く引いた。


「鬼灯様、主さまに言われて来てくれたんですよね?」


「いいえ、違いますよ」


「じゃあ…あなたの意思で?だってそれは…」


あなた自らの意思で行動することを一番避けていたはずなのに――


輝夜を見上げて見つめ合うと、輝夜は元々穏やかな目元をさらに緩めて苦笑した。


「それはもういいんですよ。私はあなたが次元の穴に消えた時…行かなければと思ったから、今ここに居るんです。これは私の意思で、私は私自身を縛ることをもうやめたんです」


「鬼灯様…それで大丈夫なんですか?あなたは何か制約を受けているんじゃ…」


「いいんですよ、もう」


ふわり、とやわらかく抱きしめられた。

こんな状況下なのにどうしようもなく胸が高鳴って、輝夜にこの鼓動が伝わらないようにと祈りながら、しがみつくように抱き着いた。


「うん、程よい大きさですね。やや小ぶりですが」


「…なんの話ですかっ!?」


歯を見せて笑った輝夜の無邪気な笑顔にまたどきどきしつつ、よろめきながら立ち上がった黄泉が輝夜とは対照的に凶悪な笑みを浮かべて指を差してきた。


「もうすでにそういう仲だったのか?惜しかったなあ、もう少しで汚せたというのに」


「侵してはならない領域がある。お前はそれを侵そうとした。そろそろ覚悟が決まったらしいですね」


やんわりと柚葉の肩を押して離れさせた輝夜は、腰に提げていた愛刀をすらりと抜いた。


凶姫の目を奪い、凌辱し、あたたかい場所から迫害したこの男。

凶姫を保護して愛を交わした朔の命を脅かしたこの男。

そして、柚葉までをも凌辱しようとしたこの男。


自分の怒りに火をつけたのはどれかと言われれば、火を見るよりも明らかだ。


「私にあたたかい場所を…あたたかい心を教えてくれるあなたを失うわけにはいかない」


「鬼灯…様…」


輝夜の身体から青白い炎が燃え立ち、辺りに鬼火が飛び交った。


自らの手でこの男の命を奪う――


自らの、意思で。