宵の朔に-主さまの気まぐれ-

あと小指一本分でその柔らかそうな肌に手が届く――と思った時。


ばちっと火花が飛び散ったかと思うと、全身にとてつもない痛みが迸って何かに吹き飛ばされた。

背中から叩き付けられて悶絶していると、柚葉もまた何が起こったのか分からず露わになった胸元を必死に手で隠して震えていた。


「い、今の…なに…?」


「お前…っ、それは……何かの加護だな…!?」


「加護?…あ…鬼灯様の…」


――あの時唐突に口付けをされた。

その時何かを飲み込んだ気がしたが…あれのおかげなのだろうか?

こんなことになるのではないか、とぼんやりとしか見えない未来を本人が予想して加護を?


「…鬼灯様……」


無性に会いたくなった。

もう会えないのではないかと諦めかけていたが、無性に会いたくなった。


「鬼灯様…鬼灯様……鬼灯様、鬼灯様……っ!」


「はい、呼びましたか?」


返事が在った。

黄泉が作った特別な次元の穴の中、その声が聞こえるはずはなかった。

だが、すぐ傍で聞こえた。


「え……?」


明るくはないが前方の薄暗い空間に真っ白な楕円形の穴が開いた。


柚葉はその眩しい光に目を焼かれないように両手で庇いながら、助けに来てくれた者の名を、また呼んだ。


「鬼灯様!」


「迎えに来ましたよ、お嬢さん。一緒に帰りましょう」


歩み寄ってくる度に左右に揺れる腰まで届く長い髪。

その穏やかな微笑――だが少し困ったような顔をしているのが見えた。


「なかなか情熱的な格好をしていますねえ、目の保養目の保養」


「えっ?きゃ、きゃあーーっ!」


茫然としてしまって胸を隠していた手を下ろしていた柚葉、絶叫。


「さて、冗談はさておき…お前の処遇は私に任されました。命の覚悟を済ませなさい」


自ら動かないはずの輝夜が動く――

柚葉は無意識に立ち上がって、輝夜の袖を握った。


止めなければ、と思った。