宵の朔に-主さまの気まぐれ-

縁側に這い出た凶姫に目をつけた冥は――相変わらず周辺を固める朔の側近たちと守られてばかりの凶姫に苛立ちを覚えていた。


美しいというだけでちやほやされて、しかも子までできたとなればその身はもう生涯安泰。

何不自由なく暮らしていけるのは、男の操縦がうまいから。

…私の主もそうやって篭絡されたのね。


「主…あそこまで行きます」


朔と椿が戦っている最中、冥は、こそりと黄泉に話しかけた。

庇われている格好の黄泉はさも楽しげに腕を組んでその様子を見ていたが、それに関しては返答をした。


「ならん。お前はまたあの女を殺すつもりなんだろうが」


「…いえ、なんとかして攫ってきます。その後は…どうするおつもりですか?」


「その後?ああ、傀儡にするかどうかという話か?そうだなあ…まずは腹の子を殺した後にしばらくは俺の傍に侍らせる。お前の手にあの女の手が合うかどうか調べないとな。冥、やれるのか?あいつらは強いぞ」


「…私の命に賭えても」


「ははは!そもそもお前に命など最初からないぞ。俺の術でお前は動いているんだ。言ってしまえば俺が死ねばお前も死ぬ。ああ死ぬというより、壊れると言う方が正しいな」


…黄泉の物言いはいつも辛辣だ。

何を言っても傷つかないと思っているのか、いつもわざとぞんざいな扱いをしてくる。

だが、知っている。

この人は、寂しがり屋なのだと。


「……ここからは逃げられませんが、次元の穴が使えると思います。ですが限定的なのでこの敷地内から逃れることはできません」


「よしそれでいい。時間さえ稼げればこちらのものだからな」


ひそひそと交わされるふたりの会話は聞こえなかったが、何か話していることには輝夜は気付いていた。


ひたと凶姫に向けられる黄泉の目――

あれはやはり、恋をしている男の顔。


「兄さん…時間をかけては駄目だ」


何かまだ謀がある。


こんなにも未来が見えないことがじれったいとは。

握る拳に力が入った。