宵の朔に-主さまの気まぐれ-

顔を上げた朔は、迷いのない目をしていた。

また凶姫に愛の言葉を捧げた朔に対して舌打ちをした椿は、まず四方を固めている十二神将と、凶姫の周りを固めている銀たち…いや、その中に雪男を見つけて指を指した。


「お前は最後に私を弔ってくれたな。痩せ細って見る影もなかった私を弔ってくれた。…だがそれを朔に伝えなかった。朔が私の墓前で悲しんでくれたならば…私はこうして蘇ることもなかったかもしれない」


「俺を責めたいならいくらでも責めればいい。俺はやるべきことをやった。主さまより俺が憎いのなら戦ってもいいぜ」


雪男の右手に瞬時に雪月花が顕現すると、その虹色の発光を目を細めて見つめた椿は、一歩前に踏み出して朔に立ち塞がられた。


「師匠、あなたの相手は俺だ。…弔ってやれなくてすみませんでした。あなたが居たから俺は強くなれて、当主としてやっていけてる。感謝しています」


「…私と添い遂げることはできない、と?」


「妻にと決めた女が居ます。子が生まれます。あなたを不当に蘇らせたその‟渡り”は何もかもを壊してしまう。師匠…あなたが安らかに眠れるように努めます」


ずっとくつくつ笑っている黄泉をちらりと見遣った朔は、天叢雲を拾って輝夜に手渡すと、腰に手をあてて友に話しかけるように問うた。


「お前は芙蓉の目を持っているな?」


「ああ、持っているとも」


あまりにも友好的に話しかけられたため、あっさり答えてしまった後はっとして舌打ちした黄泉は、凶姫の目を収めている懐を無意識に抑えると、一歩後退した。


「貴様…さすがは魔性の者だな」


「それが分かればいい。師匠をこんな形で俺の前に立たせたこと、必ず後悔させてやる」


壮絶なまでに妖しく笑んだ朔にぞくりと背筋が震えた黄泉は、危険を感じて眼前に立ち塞がった冥の肩を押し退けて凶姫をちらりと見ると、朔に言い放った。


「その女が俺の物なのに変わりはない。お前は椿に殺された後傀儡にして添い遂げさせてやる約束をしたからな、せいぜい足掻くがいい」


「四の五の言うな。師匠…行きます」


「朔…私に殺されてくれ」


悲しい戦いが始まった。