宵の朔に-主さまの気まぐれ-

椿自身の口から語られた詳細な物語は、朔はもちろん――凶姫の心をも打ち砕いた。


「死してもなおお前を愛しているなど、なんという愛されようよ。この地にはこの女の執念がこびりついていた。俺にはすぐ分かったから、またお前に会わせてやろうと思ってな」


椿の少し低い声はよく通った。

その場に居た全ての者がその物語を聞き、椿が苦しみ悶えながら傍から去り、しかもその後すぐ死んでしまったという事実は、朔の手を震わせて刀の鍔がかたかたと音を立てた。


「師匠…あなたが…俺を…?」


「…知らなかったわけではあるまい。私は…明らかにお前を愛していた。お前は気付かないふりをしていただけだ。いや…まだ成人もしていなかったお前には分からなかったのかもな」


蘇った椿は生前の頃とは違って肌の色が青白く、生気のない目はそれでもまっすぐ朔を見据えていた。

朔自身は椿が死んだことを知っていたが、まさかこの地に戻り、この地の墓地に弔われていることすら知らず今まで墓参りもできずのうのうと生きてきたことに絶望にも似た思いを抱いて、一歩よろめいた。


「兄さん」


「輝夜…お前には…見えていたのか…?」


「…うっすらと」


「氷雨…お前も知っていたんだな…?」


「…ごめん。主さまを惑わせたくなかったんだ。ただならぬ関係じゃなかったら言ってたんだけどさ。その…はじめての女だろ?だから…」


「朔…!」


ようやく――ようやく絞り出した凶姫の悲鳴のような呼びかけに、朔は肩越しに振り返って畳に突っ伏している凶姫を眉根を絞って見つめた。


「芙蓉…」


「その人は…死んでるんでしょう…!?あなた…どうするつもりなの…!?」


「それは…」


ぎり、と歯を食いしばって懊悩する朔に、輝夜は静かに声をかけた。


「殺す他ありません」


「輝夜…!」


「兄さん、どうかあなたの手で。そうでないと彼女は報われません」


彼女とは、どちらのことなのか――


黄泉はずっと、くつくつと笑っていた。

この茶番劇の幕開けに、笑いが止まらなかった。