宵の朔に-主さまの気まぐれ-

その日――難儀なことに、別の嵐がやって来た。

多くの妖が大挙して幽玄橋を渡って屋敷に向かっている――そう報告を受けた朔は自室から出ると、雪男が門の向こう側から見える大勢の妖に注目しているのを見て隣に立った。


「なんだあれは」


「さあ分かんね。今日来客があるなんて聞いてないんだけど」


「悪意がある感じじゃないな。しかも…」


十数人の団体の多くが――


「何よあれ。女の気配ばかりするじゃない」


不機嫌全開の声が背後から聞こえてきて振り返った朔は、鼻面に皺を寄せている凶姫の表情を見て思わず吹き出した。


「きれいな顔がもったいないことになってるぞ」


「うるさいわね機嫌が悪いのよ。あれは何なのかって訊いてるのよ」


「俺にも分からない。とりあえず様子を見る」


来客の予定がないことから、あちこちに散らばっていた銀や焔、白雷や氷輪が俄かに庭に集結していた。

ひとりで一騎当千にあたる力があるため、妖気に満ち満ちた屋敷を前に謎の来訪者たちが足を止めて動揺していると、雪男が仕方なく門を出て事情を聞きに行くと――朔を振り返って明らかに困惑している顔を見て、朔も嫌な予感全開。


「これはもしかしてまずいことになったか」


「どういう意味よ。誰なのよあれは」


質問攻めにする凶姫の肩を抱いて朔から離れさせた朧だったが、朧もまた女の勘が働いて、苦虫を噛み潰したような表情に。


「朧さん?」


「もう…兄様がもたもたしてるから」


「え?」


――門を潜り、玄関から脇を通って庭に現れた集団――半数以上がきれいな顔立ちをした女で、柚葉もまた嫌な予感全開で声を震わせた。


「も…もしかして…」


「いつまでも兄さんが嫁を貰わないからこういうことになるんですよ」


「え?じゃあやっぱり…?」


「そうです。彼女たちは名家の姫君たちで、恋文を出しても返事もしない兄さんに業を煮やして自ら乗り込んできたんでしょう。ふふふ面白いですねえ」


揃いも揃って美女揃い――

女の戦いに火が付く。