宵の朔に-主さまの気まぐれ-

墓地の名簿を見返す機会など一年に一度あるかないか。

朔、輝夜、雪男は一冊の名簿を取り囲んで覗き込んでいたが――‟渡り”が墓地で何をしようとしているのか分からず、ただただ困惑していた。


「輝夜、お前にも分からないのか?」


「私が見えている未来までは幾筋もの道があり枝分かれしているのです。最後にたどり着く未来は見えているのですが、いくつもある道の全てを知っているわけではありません。墓地、か…」


その中には百鬼だった者も居れば、無名の妖も居る。

雪男に一任していたため墓地に誰が弔われているのかあまり知らなかった朔だったが――ひとりの名を見つけて息を止めた。


「ここに埋められていたのか。知らなかったな」


朔の目線を辿ってそれが誰だか確認した雪男は、頬をかいて困った表情を浮かべた。


「ああ…それはその…先代に言うなって言われてたから。ごめん」


「いや…どうしていたのか気になっていたから知れて良かった。そうか」


少し感慨深くなった朔に雪男以外が首を傾げたが、目の見えない凶姫はずばっと切り込んだ。


「知っている人なの?」


「ん、だいぶ前に屋敷に出入りしていた者だ。病にかかって突然出入りがなくなって、死んだとは風の噂で聞いていたんだが」


「主さまが悲しみすぎて家業が疎かになるんじゃないかって先代が心配してたんだ。だからその…」


「いやいい、お前が気に病むことはない。しかし‟渡り”が何か仕掛けてくる日は近いということだな。凶姫、柚葉、お前たちもしばらくは町に出ずここに残ってくれ。そろそろ決着がつくから」


「はい」


「ええ分かったわ」


朔の顔が悲しみに翳る。

気配で察した凶姫は、居間から縁側に移って空を見上げている朔の隣に座ると、その袖を握って離さず、朔が口を開くまで待ち続けた。