宵の朔に-主さまの気まぐれ-

急いで屋敷に戻ると、玄関を潜る前にある大きな門の前で半ば立ち塞がるようにして背を向けて立っている雪男と、なんとか脇を掻い潜って門の外に出ようとする朔の姿が在った。


「ぎりぎり間に合ったというところですね」


「輝夜!大丈夫か!?」


「ええ私もお嬢さんももちろん無事ですとも。どうしたものか‟渡り”が墓地に居ましてね。ちょっと挨拶をして来ました」


眼光鋭い朔の表情に柚葉が身を竦ませて輝夜の背に隠れると、はっとした朔は目頭を押さえて気を落ち着かせて雪男に肩を叩かれていた。


「ほら大丈夫だったろ?主さまはここから出ちゃいけないって何度も言ったんだけどさ」


「兄さん、言いつけは守ってもらわないと困りますよ」


「‟渡り”が現れたんだぞ。しかもここではなくこの町に現れたとあっては何をしてくるか分からないじゃないか」


「ですから現れてからすぐ挨拶に行きました。何やら独り言を言っていましたよ。…雪男、墓地に埋められている者の名簿を見せて下さい」


「ああ分かった」


輝夜と雪男が揃って屋敷に入り、朔はまだおどおどしている柚葉の肩を抱いて引き返しながら、謝罪した。


「ごめん、俺怖い表情してたな」


「い、いいえ…。主さまと姫様に何もなくて良かったです」


「柚葉!」


裸足のまま駆けてきた凶姫に思い切り強く抱きしめられた柚葉は、心細げに震えている背中を撫でてやりながら苦笑した。


「私も鬼灯様も無事ですよ。‟渡り”が何をしに来たのか私も気になるのでちょっと行ってきますね」


そして柚葉も輝夜たちの後を追って屋敷へ入ると、凶姫は朔の袖をぎゅうっと握って唇を噛み締めた。


「朔…」


「墓地…あんな所に何をしに…?」


ここに直接凶姫を狙いにやって来ると思っていたのに、‟渡り”は墓地に現れた――


何か罠を仕掛けに来たのだろう。

朔もまた凶姫の手を引いて雪男が用意した墓地の名簿を見に屋敷へ引き返した。