宵の朔に-主さまの気まぐれ-

欲しい材料が意外と多めだったため、後で屋敷に持ってきてもらうようにお願いした柚葉は、店を出てすぐ立ち止まった輝夜を見上げた。


「鬼灯様?」


「妙な気配がしますね…。お嬢さんは先に帰っていて下さい」


そう言ってすぐ歩き始めた方角は――墓地がある方で、しかも妖用の区画だった。

そこは誰もが近付かない場所。

妖は死ねば悲しみはするが弔いのために墓を訪れることはないし、人は妖の墓地に近付いて祟られることのないよう忌避している。

そこを毎年きれいに掃除して整備しているのは朔率いる百鬼たちだった。


「待って下さい鬼灯様、私も行きます」


「いえでもちょっとこれは…やばそうなので」


背の高い輝夜の歩幅は大きく、ちょこまかと忙しなく足を動かしてついて行った柚葉は、珍しく笑みの消えた輝夜が心配でひとり屋敷に帰る気にはなれなかった。


「やばそうって何がですか?」


「突然気配が現れたんですよ。それも‟渡り”の」


「え…っ!でも主さまは…」


「兄さんはここに来れません。きっと雪男が全力で止めているでしょうから、私は‟渡り”をどうにかします。だからお嬢さんは…」


「一緒に行きますから」


「強引だなあ」


‟渡り”は弱い者を餌食にする傾向があり、柚葉が狙われる可能性もあったが――一体墓地に何をしに来たのか…目的が分からずしかもこんな未来は見えていなかったため、自然と妖気が漲る。


繁華街から一本短い橋を渡ると墓地があり、柚葉を背中に庇いながら進んで行くと、ひとり佇んでいる男の姿が在った。


「そうか、それは可哀そうに。俺がどうにかしてやろう」


「何をどうするつもりですか?」


背後から声をかけた輝夜をゆっくり振り返った‟渡り”が誰に話しかけていたのか――その姿はなく、輝夜は目を細めた。


「来たか。ちなみに俺が刺して殺したはずのあのおきれいな顔をした男はここに埋められていないようだが?」


「ここには埋めていませんけど、お前に教える道理もありませんね」


「これはおかしなことだ。ふふ、面白いものを見つけたから取りに来ただけだよ。あの女はまた今度頂きに来るからな」


‟渡り”が柚葉に目を留めた。

すぐ察した輝夜が‟渡り”――黄泉に手をすうっと伸ばすと、黄泉は警戒して飛び退り、そのまま次元の穴に消えて行った。


「…戻りましょう」


もしや、朔が生きていることに気付かれたかもしれない――

輝夜は柚葉の手をしっかり握って急ぎ家路に戻った。