宵の朔に-主さまの気まぐれ-

その手つきは優しかった。

その目はやわらかく柚葉を見つめていた。

唇は首筋を優しく這って、今までそんなことをされたことのなかった柚葉はただただ身を固くして、どうしてこんなことをするのだろうかと思っていた。


「ほ、鬼灯様…」


「はい」


話しかければ応える。

だが首から肩に伝う唇の動きは止まらず、それでも柚葉は輝夜を拒絶できずにいることが不思議でならなかったが、たったひとつ――確信があった。


この男は自分を好いて抱こうとしているのではない、と。


優しい目つきは変わらないが、その目の奥深くにはどこか冷めたような光が瞬いている。

それは本質的に人が持ち得ないものに見えて、胸元に潜り込もうとする手を掴んで止めた柚葉は、自分が抱かれようとしているにも関わらず、きっと輝夜を睨んだ。


「鬼灯様。あなたは私を抱きたいなんて思ってませんね?」


「…どうしてそう思ったんですか?」


「鬼灯様。あなたに欠けているもの…分かった気がします」


「……それは何だと思いますか?」


――輝夜が覆い被さっていた身体を起こそうとしたが、柚葉は輝夜の頭を抱いて引き寄せると、耳元でそれをこそりと囁いた。

そして輝夜は――目を見張り、全ての動きを止めて柚葉を見つめた。


「これは…驚きましたね…。私に欠けているものを言い当てたのは、あなたがはじめてですよ」


「それは嘘ですよ鬼灯様。あなたをちゃんと見ていたら絶対に気付きます。気付くけれど、それを口に出したくないだけです。そんな人はこの世に居ないんだと思い込んでいるから」


ふうと息をひとつ吐いた輝夜は、柚葉の乱れた胸元を直してやると壁にもたれ掛かって座り、腕を広げて柚葉に笑いかけた。


「ちょっとおいでなさい。何もしませんから」


「…本当ですね?」


軽く睨むと輝夜が笑い、その腕に抱かれて目を閉じると――何故かとても落ち着いた。


「あなたを抱こうとしたのは、未来の見えないあなたを抱けば私は何かを得るのではないかと思ったからです。ですが…まさか見破られるなんて本当に驚きだなあ」


「きっと主さまも気付いてますよ、鬼灯様の欠けてるもの」


「そうでしょうか?いやあ、本当にあなたは特異な人だ」


ただただ苦笑した。

ただただ苦笑して、柚葉を抱きしめた。