宵の朔に-主さまの気まぐれ-

何に心を痛めているのか――何に怒っているのか、おおよそ見当はついていた。

彼女がそうやって感情を露わにするのは朔か凶姫の時だけだから。

そして追いついた輝夜は、自室の隅で壁にもたれ掛かって座っている柚葉の隣にゆっくり腰を下ろした。


「怒ってるんですか?悲しいんですか?」


「…どっちもです」


「何に怒って何に悲しんでいるんですか?」


「…私たちが主さまを戦わなくていい戦いに巻き込んでいることに怒っているし、悲しんでいるんです」


ちらりと柚葉の顔を見た輝夜は、涙でまつ毛が濡れているのを見て着物の袖でちょいちょいと拭ってやると、ひとつ息をついた。


「兄さんが好きで巻き込まれたんだからあなたがそう荒ぶる必要はありませんよ。それより兄さんがどうというよりも違うことに怒っているように見えますが」


図星を言い当てられて言葉に詰まった柚葉は――先程実は朔と凶姫が抱き合っているのを見てしまっていて、そちらの動揺の方が遥かに上回っていた。


「…主さまと姫様は…その…やっぱり…そういう関係なんですよね?」


「ああ…そうですね、もちろんそうでしょう。隠していてもいずれ分かることでしょうけど、それが何か」


ぎゅっと唇を噛み締めた柚葉は、分かり切っていたことを問うて分かり切っていた返答を聞かされて打ちのめされて――うなだれた。


「そうですよね…やっぱり…」


「あなたは兄さんとそういう関係になりたかったんですよね。一途な方ですから今となっては他の女に目もくれることはないでしょうが」


「…分かってます」


「兄さんと口付けをしたり抱かれたりというのは叶わな願いでしょうが…したいんです?」


――そう問われて、自分と朔が唇を重ねているのを想像した柚葉は顔を真っ赤にして両手で顔を隠した。


「そんなこと…!」


「…ふむ」



柚葉の過剰反応におもむろに顔を覆っている手を握って外した輝夜は――


きょとんとしている柚葉の唇に、ゆっくり唇を重ねた。