宵の朔に-主さまの気まぐれ-

蜃の使用を止めれば‟渡り”はここにやって来る。

だがここを戦いの場にはしたくないため、幽玄町の東端に広がる平野にて決戦の場とすることに決めた。


「おびき寄せるにはどうすればいい?」


「おびき寄せずとも、あちらから何か仕掛けてきそうなんです。今それを探っている最中なので少し時間を下さい」


輝夜とてはっきり見えているものと見えていないものがあるようで、朔はあちらから仕掛けてくるという言葉に反応して眉を上げた。


「それは幽玄町の者までも巻き込みそうか?」


「あの平野に無事おびき出すことができれば問題ないでしょう」


「俺は死んだことになっているんだな?」


「そうですよ。ですからあちらの目的は凶姫ということになります。おまけに私の命、というところでしょうか」


「お前の?どうしてお前が狙われるんだ?」


「兄さんの後釜は私ということになっているでしょうし、私が居ないことにこしたことはありませんから」


輝夜までも狙われると分かり、じわりと殺気が漂った朔の両肩にぽんと手を置いた雪男は、朔の手に盃を持たせてにかっと笑った。


「なんか独りで戦うみたいな顔してるけど俺たちが居るんだからな。俺たちは誰ひとりとして欠けないし、主さまを守る。しっかし生きてると知ったら怒るだろうなあ、あの‟渡り”は」


「激怒でしょうねえ、何せ彼らはものすごく矜持が高いですから」


朔、凶姫、輝夜が狙われる――

その中に自分が含まれていないことにほっとしたものの、柚葉は膝の上で握った拳を真っ白にして声を震わせた。


「大丈夫…なんですよね…?」


「この屋敷には雪男と父様が残ります。父様は歴代当主最強と謳われた方ですし、雪男は兄さんの右腕ですから何が来ても問題ありませんよ」


争いごとは嫌いだ。

血生臭い話になって気分が悪くなった柚葉は、立ち上がって皆に頭を下げた。


「…部屋に戻ります」


「柚葉」


朔に呼び止められたがそのまま振り返ることなく居間から出て行くと、輝夜がゆっくり腰を上げた。


「私が行きますよ」


「頼んだ」


その後ろ姿を追った。