宵の朔に-主さまの気まぐれ-

朔の招集により、常日頃から屋敷に常駐している側近たちが朔の部屋に集められた。

その中には凶姫と柚葉の姿もあり、物々しい雰囲気に身体を寄せ合っておどおどしていたが、雪男たちは至って冷静に朔が口を開くのを待っていた。


「集まったか。お前たちに言い渡すことがある」


「朔、もったいぶらずに早く話せ」


「焦るなぎん。俺に手傷を負わせた‟渡り”の襲来が近いと輝夜が教えてくれた。だがここを戦いの場にはしたくないから場所を移したいんだ」


「地下の存在に気付かれるのも困りますから、残留組と帯同組に分けます」


ざわりとざわめく雪男たちだったが、彼らが一斉に口を揃えた一言に苦笑した。


「帯同組で!」


「それじゃここがもぬけの殻になるぞ。氷雨、お前はここに残れ」


「なんでここで真名を呼ぶかなあ…。主さま…大丈夫なのか?」


「お前ひとり居なくても大丈夫だ。いいか氷雨。お前を信用しているからここに残ってもらうんだぞ」


「分かってるよ。任せろ」


朧と雪男が頷くと朔も頷き、銀はさも同然だと言わんばかりに腕を組んでふんぞり返った。


「俺は一緒に行く」


「主さま」


それまでじっと黙っていた焔が秀麗な美貌を無表情に染めたまま朔を見つめた。


「なんだ」


「主さまは何のために戦うのですか?私たち妖のためですか。それとも…女のためですか」


しんと静まり返る。

朔は凶姫と柚葉に視線をくれることもなく、焔を呼び寄せて目の前に座らせると、ふかふかの耳を撫でて笑った。


「全てと言える。俺に手傷を負わせたこと、凶姫と柚葉を心身共に傷つけたこと、同類を手にかけたこと…全てだ。俺があの男を見逃せば俺の沽券に関わる。だからお前にも手伝ってもらうぞ」


「…はい」


親愛する朔に頭を撫でられて尻尾がふわふわ動いた焔が下がると、朔は壁にもたれ掛かって座っていた十六夜に頭を下げた。


「父様、ここをお願いします」


「…分かった」


態勢は整った。

皆で輪になって軽く拳を突き合わせて、心をひとつにした。