宵の朔に-主さまの気まぐれ-

この家の者の団欒の場は居間であり、居間の前にある縁側だ。

基本的に自室に籠もることはせず、何十人も一斉に寛げる広さの居間で氷菓子を食べていた朔の前に引きずり出された柚葉は、きょとんとして見上げてくる朔と視線を合わすことができずに輝夜の袖をずっと握っていた。


「どうした?」


「兄さん、ちょっといいですか」


「うん。…?」


咳ばらいをして朔の前に柚葉と共に正座した輝夜は――握り拳を作って早口にまくし立てはじめた。


「雪男と戦っている兄さんは、いやあ本当に蒼天の下舞い踊るまるで白鷲のように美しくただ圧倒的に孤高の存在という感じがしまして私はそんな兄さんと目が合ったらば殺されてもいい…いやむしろ殺して欲しい…いや、食べてほしいと思わせる命の儚さをも感じてしまいましたよ。そして…」


「ま、待て待て輝夜。お前一体…」


「おや?私はつまり何を言いたかったんでしょうか…。ね、お嬢さん」


「…!つ、つまり鬼灯様は主さまがとても素敵で見惚れてしまったと言いたいのでは?」


ぽんと手を叩いた輝夜は、合点がいったという顔で朔に笑いかけた。


「そう、そうですよ。兄さん病み上がりなのにお疲れ様でした。素敵でしたよ」


「う、うん…。なんだ?それが言いたかったのか?」


「ええもちろんそうですとも。なんですか?照れますか?」


急に褒められて祀り上げられた朔は、頬に汗が伝うほど緊張している柚葉を見て吹き出すと、宇治金時味の氷菓子を匙で掬って柚葉の眼前に差し出した。


「通訳をしてくれて助かった。暑そうだから、ほら口開けて」


「えっ!?そそそんな、滅相もありません!」


「いいからほらほら」


朔の強引な圧を受けて恐る恐る口を開けると、匙を突っ込まれて口の中いっぱいに冷たさを感じたが、あまりに突然で――あまりに幸運な出来事に動転して味を感じることができなかった。


「兄さん、私も欲しいなあ」


「はいはい。あーん」


「あーん」


「……これってもしかして…!」


――間接…


朔から自分に。

自分から輝夜に。


それでまた動転した柚葉は頭をぐるぐるさせていたが、輝夜がもたらしてくれた幸運な出来事に感謝してふたりでにこにこしてまた朔をきょとんとさせた。