宵の朔に-主さまの気まぐれ-

十六夜と話したことで落ち着きを取り戻した朔は、縁側に戻ってひとりぽつんと座っている凶姫の隣に座った。


「ひとりでどうした?」


「あなたがひとりだから寂しいんじゃないかなと思って居てあげたのよ」


「ふうん、優しいんだな。ちょっと嫌なものを見て動揺してたんだ」


何を、とは訊いてこない凶姫に小さく笑いかけつつ、あの幻で見た光景は実は自分の願望なのではないかと思い始めていた朔は、妖の年齢で言うとまだうら若い凶姫に問うてみた。


「お前は小さな子は好きか?」


「小さな子?私は好きだけど、あまり好かれる方じゃないわね。私きつい顔をしてるから」


「難儀だな。ちなみに俺は兄弟が多いから大好きなんだけど」


「何よそれ…私に沢山生めとでも言いたいわけ?」


少し顔を赤くした凶姫の手を周囲を憚りながら握った朔は、凶姫をからかうことなく固く頷いて握る手に力を込めた。


「子沢山がいい。でも俺はまだまだ引退できないからお前をひとりにさせたくない。子が沢山居れば…寂しくないと思うんだ」


「それは…そうね。でも私まだ成人したばかりの小娘よ?なかなか想像できないわ」


「今からしてみて。‟渡り”をやったら祝言を挙げて、この家に入ってくれ」


唐突に何故朔がそう言いだしたのかは分からなかったが、雪男と刃を交えた後に朔の様子がおかしくなったのは確かで、今こうして子の話をしてきたことはきっと何か意味のあること。


「私にはもう血の繋がった家族は居ないから、こんな私でよければ。こんな…汚れた私でよければ…」


「そう卑下しないでくれ。お前はきれいだ。美しい。そこだけに惹かれたんじゃない。芯が強くてからかうと面白くて、可愛い女なんだぞ」


「!ちょ…やめ、やめて!褒めたって何もあげられないんだから!」


ははっと笑った朔は、ぎゅうぎゅうと身体を押して離れさせようとする凶姫の手だけは絶対離さずに頬を緩めた。


穏やかな日常にはまだ早いけれど、そんな日常を想像するのはとても楽しい。

凶姫の純潔を奪い、魂までも汚そうとしたあの‟渡り”と決着をつけたその先にきっと――


求めているものが、あるのだろう。