宵の朔に-主さまの気まぐれ-

毎日毎朝毎晩――求め合っても飽き足らないふたりの間に妙な違和感が生じ始めていた。

凶姫は柚葉の部屋を日々埋めていく小物や着物が増える度に別れを感じて寂しがり、朔は輝夜が常日頃浮かべている微笑に翳りが生じることを不安に感じていた。


庭で蝉が盛大に鳴いている初夏、朔は自室に移って日々を過ごしていたが、この日凶姫の来訪がまだなく、朝…昼…待てど暮らせどやって来ない凶姫に業を煮やして様子を見に廊下を歩いていた。


「芙蓉…?」


少し開いている襖からそっと中を窺うと――そこには軽やかに畳を蹴って舞っている凶姫の姿が在った。

こちらには気付く気配もなく閉め切った部屋の中、頬を伝う汗も気にせず一心不乱に舞っている。

細い脚が畳を蹴る音は蝉の鳴き声にかき消されて、朔もまた凶姫が唯一の特技だと豪語する舞いに目を奪われてその場から動けずに居た。


「!誰!?」


「ああすまない、俺だ。夢中だったみたいだけどどうした?」


「別に。用がないなら放っておいて」


そっけなくされたが気にすることなく部屋に入った朔は、凶姫に手拭いを差し出したがそれを受け取ることもなく眉間に皺を寄せてまだ舞っている凶姫の肩に触れようとして、すいっと躱された。


「用ならある。どうして会いに来ない?」


「会いに行かなくちゃいけないの?私だってひとりになりたい時だってあるもの。身体を動かしていないと鈍るし、唯一の私の武器なんだから」


「ふうん。今日はなんだか冷たいんだな。そういうのもいいけど」


「…」


「邪魔した。俺もちょっとひとりになる」


――そう言われると朔が最近少し物憂げにしている時があることに気付いていた凶姫は、ようやく動きを止めて腰に手をあてた。


「どうしてひとりになりたいの?」


「そっちこそどうしてひとりになりたいんだ?」


「私は…話したくないわ」


「俺も話したくないからいい。今日はお互いひとりで居よう」


…急に、急激に凶姫は朔に見放されたのではと不安を覚えて背を向けた朔の袖を掴んだ。


「どうした?」


「話してよ。何を悩んでるのよ」


「まあとりあえず座ろう。今から互いに悩みを打ち明け合う。いいな?」


「…ええ」


少し離れた場所に凶姫が座った。

朔は距離を詰めず、凶姫の正面に座って静かな眼差しを向けた。