宵の朔に-主さまの気まぐれ-

「くそっ!埒が明かん!」


机の上にある全てのものを薙ぎ払いながら激高する主…黄泉の様子を冥はただただ無表情で見つめていた。

自分に八つ当たりすることはない。

何故ならば、今自分は"完全体”ではないのだから。


失った右腕は失ってからもうひと月以上経つというのに、そのままだ。

それもこれも黄泉が完璧主義なため、完璧な右腕を調達するのに苦戦しているからだった。


「ない…どこへ行ってもないぞ…!右腕だけでいいのに、何故見つからない!?」


「主…私はこのままでも…」


「お前のような不完全なものを傍に置く趣味はない!お前は俺が完璧に作ったのだ!お前は完璧でなくてはならん!」


自分は…完璧ではない。

それは知っているし、分かってはいたが――はっきりそう言われるとしゅんとなってしまった冥が立ち尽くしたまま俯くと、黄泉ははっとして冥を抱き寄せた。


「お前を元に戻してやりたいだけだ。そうでなければ俺の気が済まん。冥…できればお前の左腕も替えたいんだ。美しい両腕をまたつけてやる。ほら、こっちへ来い」


――作業場の片隅に置かれた簡易な寝台。

そこだけは常にきれいにされていて、そこに寝かされて黄泉に覆い被さられた冥は――その時だけ、生きていることを実感する。


性の捌け口――自分はそんな卑小な存在でしかないことも知っている。

主に愛玩されるためだけに、生きている。

だから主に愛玩されなくなった時が、自分の終わりの時なのだ。


その終わりを、あの"女”がもたらすかもしれない。

それが本当に…怖い。


「ああそうだ…あの女が居た。あの女の腕も真っ白で滑らかで…美しかったな。そうだ…そうだぞ、あの女の腕を使おう」


「!主…!それだけは…!」


「いいや、それがいい。もう俺が決めた。冥…必ず元に戻してやる。さあ、愛してやる。だから…俺を愛しておくれ」


友を持たず、接し方すら知らない孤独な主。

冥は黄泉の身体に腕を回して抱きしめた。


あの女を殺さなければ。

絶対に絶対に――