宵の朔に-主さまの気まぐれ-

何食わぬ顔で居間に戻った朔は、いつも通り百鬼夜行の準備を整えた後、いつも通り幽玄町を発った。

その後息吹は柚葉が仕立ててくれた着物を着て黄色い声を上げて喜び、柚葉の苦労はその笑顔で吹っ飛んだ。

しばらくの間部屋に引き篭もっていた凶姫と言えば――風呂に入り、広い湯船に首まで浸かって朔の言葉を反芻していた。


「抱くって…抱くって…私を…」


率直にそう言われて、驚きよりも喜びが勝った。

そしてより強く朔の顔を見てみたいと思い、それで最終的に決めようと思った。


「でも心眼を使うと私しばらく寝込んじゃうのよね…」


その代償はとても大きいが、それでも朔の顔を見なければ。

どんな顔をして自分を口説き、抱きたいと言うのか――確かめなければ。


――上せそうになって風呂から上がると、居間で朧がまだ小さな赤子を抱いてあやしていた。

そこに柚葉の姿はなく、凶姫は朧の隣に座って口を開けたり閉めたりして相談を切り出そうとしていたが、なかなか言い出せない。


「?どうしたの?」


「あ、あの…ちょっと聞きたいことがあって…」


「うん、聞くよ?相談?」


「あの…月はその……夜伽の相手をここに呼んだりするのかしら?」


…顔を赤くしながら問うてきた凶姫の顔をぽかんとして見つめていた朧は、何故そんなことを聞いてきたのか考えて、そしてぴんときて内心歓喜。


「兄様がここに女の人を呼ぶことがあるのかって言ってるの?」


「そ、そうよ」


「うーん…私が知ってる限り今まで居ないけど。…凶姫さん…もしかして…」


「ちょ、ちょっと気になっただけ!別に私を夜伽の相手に選んだりしてな………ああ私ったら…!これじゃばればれよね…」


消え入るようにそう言って両手で顔を覆った凶姫に朧はきゅんきゅんして、凶姫の背中を摩って寄り添った。


「兄様はとても素敵な方よ。あなたさえよければ兄様を幸せにしてあげて。絶対お互い幸せになれるから」


太鼓判を押す朧に凶姫は顔を覆ったまま、結論を出した。


明日、朔の顔を見て決めよう、と。