宵の朔に-主さまの気まぐれ-

自室に下がった凶姫は、部屋の真ん中に立ち尽くして上がる息をなんとか整えようと何度も深呼吸をしていた。

実際こうして本格的に舞ったのは本当に久しぶりで――遊郭に居た頃は毎日舞っていたのに、少し止めていただけで息が上がったことに舞姫としての矜持は折れそうになっていた。


「こんなことじゃ駄目ね…。ここを出たら私はこれで食べていかなきゃいけないのに」


「だから出て行く必要はないと言ってるじゃないか」


「!?ちょっと…勝手に入って来ないで」


振り返らずにそう答えると、朔が背中側に立っているのが分かり、その大きな手が凶姫の肩の上に優しく乗った。

朔に触れられると身体が疼いてしまい、それを知られたくなくてその手を払おうとしたが、逆にその手を掴まれてしまった。


「さっきの、すごかった。出会った時に舞いを盗み見たことはあったけど、本格的に見たのは今日がはじめてだ」


「そうね、お金を払ってもらわないと私の舞いは見れなかったから」


「今度俺のために舞ってくれ」


「お金を払ってくれればいつでも。今のうちに資金を貯めておかないと」


なおも出て行こうとするのを止めない凶姫に業を煮やした朔は、顔を寄せて凶姫の首筋に唇を這わせた。

官能的な唇の軌跡に身体を震わせた凶姫は、舞ったばかりで汗ばむ身体を触られたくなくて身をよじったが、朔に背後から強く抱きしめられてそれ以上の抵抗ができなかった。


「やめ、て…っ、私今汗ばんでるから…!」


「いい匂いだ。俺は好き」


「月…!」


「抱きたい。今じゃなくていいから、近いうち覚悟を決めてくれ」


「…!私を…抱く…?」


「ん、絶対抱きたい。俺の手で唇で…全てでお前を」


耳元で囁かれる低く甘い声に、頭がおかしくなりそうになる。

凶姫が途切れ途切れに上げる声に、朔の頭もまたおかしくなりそうになっていた。