宵の朔に-主さまの気まぐれ-

その日、息吹が屋敷にやって来た。

近いうち会いに来てほしいと朔が珍しく文を出したため、何事かと思いながらやって来た息吹は、居間で雪男と共に毎日届く文の見分をしていた朔を見て足を止めた。


「朔ちゃん?」


「ああ母様、お待ちしていました。実は凶姫と柚葉が母様に会いたいと…」


「朔ちゃん朔ちゃん??どう…したの?」


どうもこうも、いつも通りの様子に見える朔の隣にさっと座った息吹は、相変わらず美しい朔の目を覗き込んで首を傾げた。


「どうしたの?なんかいつもと違うね」


「おー、さすが母親」


じろりと雪男を睨んだ朔は、庭先で花を見ながらきゃっきゃと声を上げているふたりを見遣って頬を緩めた。


「まあ…ちょっとした進展があっただけですよ」


「…え!?どっちと!?」


――やはり息吹もふたりのうちどちらかが嫁になると踏んでいたのだな、とその反応でため息をついた朔は、また息吹に視線を戻すとにっこり笑った。


「まだどうなるか分からないので伏せさせて下さい。雪男、ふたりを呼んでくれ」


「了解」


はぐらかしたものの息吹の好奇心を止めることは敵わず、腕を掴まれた朔は息吹に両頬を手で挟まれて有無を言わさぬ口調で再度問われた。


「ねえ、どっち?」


「そうですね…じゃじゃ馬…いや、気まぐれ猫の方です」


「気まぐれ猫?…………姫ちゃん?」


声を潜めた息吹に朔が頷くと、息吹の表情がみるみる綻んで朔を苦笑させた。


「姫ちゃんも朔ちゃんが好きなの?もう両想い?」


「手応えはありますが…"渡り”が絡んでいるせいか、まだ受け入れてはもらえませんね」


――この長男を拒絶する女が居ようとは。

息吹がにやける顔を両手で隠して笑みを堪えていると、駆け寄ってきた凶姫と柚葉の明るい表情を見てふたりの手を握った。


「元気そうで良かった。お呼ばれした理由を教えてもらえる?」


ふたりが顔を見合わせて頷き合う。

息吹もつられてにこにこしていて、朔は腕を組んでそんな華やかな三人に目を細めた。