宵の朔に-主さまの気まぐれ-

何もしてないのに疲れた――

朔は柚葉の話を聞いた後少し眠るために自室で寝転んでいたが…まるで寝れる気がしない。

もやもやして、どうしてここを出て暮らすなどという発想に至ったのか理解できずに険しい表情で何度も寝がえりを繰り返していた。


「あの…月…」


「…なに」


起きた凶姫が部屋の外から声をかけてきたが今は誰にも会いたくない気分で、少し不機嫌な声になってしまったが返事をすると、障子越しに凶姫がその場に座って肩を落としているのが影で分かった。

凶姫もまた柚葉の話を受け入れられずにいるのだろう。

自分とは比較できないほど柚葉とは絆が深い凶姫が打ちのめされている様は、朔の寂寥感を凌駕して――慰めてやらなければ、と強く思わせた。


「入って来て」


「え、でもここは入っちゃいけないって雪男さんが」


「昨日は無断で入ってきたくせに」


「!そ、それは…分かったわよ入るわよ」


すらっと障子の開く音がして、背を向けて寝転んでいた朔が肩越しに振り返ると、凶姫は途方に暮れた様子で指をせわしなく動かして動揺は収まっていなかった。


「ちょっとここに座って」


畳をぽんと指すとその音目指して正座した凶姫の膝に朔がすかさず頭を乗せて膝枕にあやかると、凶姫が軽く朔の頭を叩いた。


「やめて、今はからかわないで」


「からかってない。…柚葉のこと?さっき俺も話を聞いた」


「そう…。あの子勝手に色々決めちゃって私…話についていけなかった」


「俺も。でも止められそうにない。すぐに出て行くわけじゃないみたいだから、その間に気が変わってくれたらいいんだけど」


「…そうね。私も"渡り”と決着をつけたらここを出て行くから身の振り方を考えないと」


「…お前も出て行くっていうのか?」


「ええそうよ。いつまでも居候させてもらうわけにはいかないから」


――ゆっくり起き上がった朔は、しょげている凶姫の後頭部に手をあてて引き寄せると――耳元で息を吹きかけるようにして囁いた。


「出て行くな」


ぞくっと身を震わせた凶姫の指に指を絡めて引き結ばれた唇に唇を重ねると、緊張が解けたように開いて深く侵入した。


拒絶はない。

唇が重なり合う音が鳴る――


はじめて強く、"抱きたい”と思った。