宵の朔に-主さまの気まぐれ-

夕暮れ時前、少し浮かれた様子で戻って来た柚葉に駆け寄ったのは、すっかり仲良くなった朧だった。

密かに朔が猫又を放っていたため動向は知っていたのだが、本人が何と言うか――何も知らないふりをして問うた。


「どこに行ってたの?町に出たなら私も誘ってくれれば良かったのに」


「ちょっと時間ができたので散歩に行ってただけですよ」


「そんな荷物持って?それはなあに?」


「あ、これは…その…」


嘘をつくのが下手な柚葉が返答に困っていると、朧はにこっと笑って柚葉の腕に腕を絡めて縁側に向かって歩き出した。

ただしそこには朔が居たが――


「あ、あの…私、部屋に…」


「兄様がとても心配してたから話してあげて」


少し前のめりになって座っていた朔がひたとこちらを見据えていた。

柚葉は努めて笑顔を作ると、朔の前に立って頭を下げた。


「ただいま戻りました」


「うん。散歩にしては遅かったけど」


「大きな町です。あちこち歩いていたらこんな時間に。失礼します」


「柚葉、私も一緒に行きたかったわ。どうして誘ってくれなかったの?寂しかったんだから」


「もう姫様ったら。そろそろ自立して下さいませ」


珍しく柚葉に素っ気なくされて凶姫がしゅんとすると、朔はそれを横目に見つつ柚葉が抱えている風呂敷を見つめた。


「柚葉、次に出かける時は誰か供をつけて行ってくれ。俺に時間があったら俺でも…」


「ありがとうございます。少し疲れたので下がらせて頂きますね」


言葉を遮られた朔が閉口すると、柚葉はそそくさとその場を離れて行き、雪男を苦笑させた。


「主さま、振られたな」


「俺はもしかして避けられているのか?」


「ご名答。ちょっとそっとしてやったらどうだ?」


「もしかして…私も避けられてるの?」


「お前らさ、ちょっと構いすぎなんじゃないか?柚葉は性根が優しくできてるんだ。今まで色んなことがあって考える時間も必要だしひとりの時間も必要なんだろ」


理屈では分かっているが――納得はしていなかった。