宵の朔に-主さまの気まぐれ-

遊郭での暮らしは、遊女としての格が高ければ高いほど部屋を与えられたり使用人をつけてもらえるなど優遇してもらえることがあった。


だが、安心して眠れたことなど今まで一度としてなかった。


「よく寝てるな」


「ああ、まだ心身共に安らいでないんだろ。ま、こっちは俺たちに任せて主さまはしっかりやって来いよ」


夕暮れ時、百鬼夜行に出る前に凶姫の部屋を訪れた朔は、ぐっすり寝ている凶姫のあどけない寝顔を見た後部屋を出て廊下を歩きながら凶姫と交わした話の内容を雪男に話した。


「凶姫に関わった男が死んでいくという話だが、その道理を知っているみたいなんだが話してくれないんだ」


「そうなのか。主さまに話したくない理由でもあるのか…柚葉から聞いてもらえばいいんじゃ?」


「柚葉を関わらせて危険な目に遭わせたくはない」


朔が凶姫にちょっかいを出したことで、将来の嫁候補は凶姫に決まったかと思いきや、朔はこうして柚葉をとても気遣う。

雪男は朔の背中を見ながらおずおずとそれについて言及してみた。


「主さまはさ、凶姫にしたことを柚葉にもできるか?」


「できない。柚葉は男に免疫がなさそうだし、そんなことをしたら嫌われる」


「凶姫には嫌われてもいいのか?」


「いいや、それはない」


何故か断言する朔に雪男が頬をかいて困っていると、朔が足を止めて振り返った。


「何が言いたい」


「あー、いや、どうしてそんな断言できるのかなーって」


「触れて分かった。俺は絶対に嫌われない」


…ますます追い込まれた感のある凶姫に同情しっぱなしの雪男だったが、朔はこの幽玄町に“渡り”をおびき出そうとしている。

それはとても危険な賭けだったが、妖の頂の存在としての矜持は非常に高く、今後野放しにする気も恐らくないだろう。


「俺も本気出さないとな」


家族を――この国を守るために。