宵の朔に-主さまの気まぐれ-

朧が毎日食事を作るため、凶姫や柚葉も共に食卓を囲むことが日課となっていた。

また息吹の躾が良く、音一つ立てずに上品な食べ方をする朔の正面に座っていた凶姫は――何故か正面からものすごく視線を感じてまたもや狼狽していた。


「な…何よ」


「何が?」


「視線を感じるんだけど私のこと見てない?」


「目の前に座ってるから視界に入るのは仕方ない。なんだか分からないけど悩みがあるなら相談に乗る」


…寝ぼけた朔に唇を奪われたことなど到底言い出すことができず、凶姫は箸を置いてつんと顔を逸らすと口早に拒絶した。


「結構よ。自分の悩みは自分で解決するわ」


「それならそれでいいけど柚葉が心配してるからせめて態度に出すのはやめた方がいい」


――自分のことより柚葉を気にかける朔にむっとした凶姫は、すっと立ち上がって自室に引きこもると、枕を顔に押し付けて絶叫。


「月があんなことするから!」


柚葉に朔がどんな顔をしているのか問い質した時、柚葉は口ごもりながら“とても素敵な方です”と言った。

以前から意識してないこともなかったが、あんな情熱的な口づけをされた後ではどんな顔をしているのかも気にかかるようになり、朔の声を聞くだけでぞくっとしてしまう始末。


「私ばっかり意識して…月は私より柚葉の方を心配するし……ああもうっ、なんでこんな嫉妬みたいなことしなきゃいけないのよ…」


枕を抱きしめながらころんと畳に寝転がっていると――件の主が少し襖を開けて辺りを見回し、さっと部屋に入ってきた。


「!ちょ…月、何しに来たのよ」


「朝から様子がおかしいのが気にかかる。俺が居ない間に何かあったのか?」


「居る間にあったわよ!」


つい口走ってしまった後また枕に顔を押し付けて朔に背中を向けた凶姫は、じたばたもがきながらそれを悔やんでいた。


「ふふ、面白いなあ」


面白がられてまたじたばた。

とても言えない。

とてもとても――