宵の朔に-主さまの気まぐれ-

うろうろしては立ち止まり、何かを考えこんでは顔を赤くして首がちぎれるのではと思う位振って何かを取り払おうとする凶姫。

それを茶と団子をたしなみながら縁側で吹き出しつつ見ていた朔は、戻って来た柚葉を見上げると凶姫を指して無邪気に笑った。


「面白い」


「お、面白がっちゃ駄目ですよ…。結局何も聞き出せなかったんですね?」


「うん。でもまあ本人が話そうとしないから無理に聞き出すのもちょっと」


朔の傍らには常に雪男が居るわけだが、ふたりの会話に突っ込み所満載だったのに突っ込まずに黙っているのは三人の微妙な関係性を気遣ってのことだ。

朔自身に自覚はなくとも、あのふたりのうちどちらかが嫁になる――そんな確信があったため、横から口を挟んで大ごとにならないよう注意していた。


「姫様は普段とても冷静な方なんですけど…ふふ、なんか可愛い」


「ん、可愛いな」


柚葉に朔が同意すると、少し曇った表情を見せた柚葉は朔からかなり距離を取って縁側に座り、抱えていた作りかけの着物を繕い始めた。

…何故距離を取られたのか分からない朔は、腕を組んでしばらくそれを見ていたが…腰を上げて柚葉に歩み寄り、時々態度が冷たくなることについて少し唇を尖らせて不平を述べた。


「柚葉。今どうして隣に座らなかった?」


「え!?いえ…別に理由はありませんけど…」


「もしかして俺はお前に何かしたか?もしそうなら…」


「いえ。主さまは何もしてませんよ。私がこれに集中したかっただけで」


「そうか。ならいい」


にこっと笑った朔が柚葉の隣に座ってぎょっとさせると、団子の乗った皿を差し出した。


「邪魔はしない。休憩がてら頑張れ」


「は、はい…」


「うわぁ…無自覚に拷問してやがる…!」


雪男だけが柚葉の心情を理解して同情しつつ、ひとりため息をついていた。