宵の朔に-主さまの気まぐれ-

起きて部屋から出た朔は、待ち構えていた柚葉の元々困った顔をしているのにさらに困り顔になっているのを見て欠伸を噛み締めながら首を傾げた。


「どうした?」


「あの…姫様の様子がなんだかおかしいんです。具合でも悪いのかと…」


「ん、どこに居るんだ?」


柚葉が無言で庭を指す。

そこには裸足で花を植えている一角でうろうろ…まごまご…狼狽している様子の凶姫を見つけてさらに首を傾げる角度が深くなった。


「なんだあれ」


「分からないんです。何を聞いても答えてくれないのにひとつだけ質問されて…」


「何を?」


「“月はどんな顔をしているの?”って…」


「それで?」


「ええと…そこはいいじゃないですか。とりあえず様子がおかしいんです。主さまからも姫様に何か聞いてきて下さい。失礼しますっ」


なんだかはぐらかされたが、朔は庭に降りて凶姫に近付こうとした…が――

気配を察したのか凶姫がものすごい速さで振り返ると朔の足も驚いて止まり、その顔が真っ赤になっているのを見て頬をかきながらとりあえず声をかけた。


「柚葉が心配してるんだけど…どうした?」


「えっ!?べ、別に…どうもしないわよ」


「俺の顔がどうとか聞いたそうじゃないか。関係あるのか?」


「!あの子ったら…!ちょっと聞いてみただけだから気にしないで」


じっと見ていると、しきりに自身の唇に触れては擦ってみたり、撫でてみたり――世話しない。

明らかに様子がおかしいのだが本人が何も語ろうとしないため、朔は縁側でその様子を見ていた雪男に歩み寄って凶姫を指した。


「なんだあれは」


「さあ、朝からあんな感じだな。でも今ので分かったことがある」


「言ってみろ」


「主さまが関わってるなこれは。なんかしたのか?」


にやつく雪男に対して朔は考える間もなく首を振った。


「何もしてない」


「嘘つけ。主さまに異常に過敏反応してるからなんかしたんだろ。思い出せ」


「だから何もしてない」


ちょっと恥ずかしい夢は見たが…と言おうとして、それを言えばまた雪男のにやつきが増すだろうと考えてやめた。


凶姫は相変わらず庭をうろうろしている。

それがちょっと面白くて、縁側に座ってしばらく眺めることにした。