宵の朔に-主さまの気まぐれ-

百鬼夜行を終えると大抵朝方になっている。

戻ると寝る前に風呂に入るのが日課で、ゆっくり熱い湯に浸かった後自室に戻って床に入ると、意外とすぐに眠りに入り、睡眠時間は短いのだが深く寝入り、起きた後しばらくぼうっとしていることが多い。

そんな朔はその日少し恥ずかしい夢を見た。

顔は分からないのだが、恐らくとても美しい女と談笑していて、とても愛しいと思った。

普段は拠点の屋敷に常駐していることが多いため、雪男たちの目を掻い潜って女遊びをしたりすることは…ないと言えば嘘になるが、あまりない。

女に簡単に手を出せばこちらは軽い気持ちでも女に入れあげられてしまって刃傷沙汰――それで雪男にものすごく怒られたこともあり、朔は女に対してものすごく慎重な男になっていた。


だが夢の中に現れた女には触りたいし、せめて夢の中でなら何をしても構わないはず――

その女の方から腕に触れられた朔は、その手を取って掌に口づけすると、顔を近付けてとてもやわらかい唇を奪った。


受け入れられた…と分かると、もう止まるつもりもない。

深く深く唇を重ねて身体から力が抜けた女を抱き寄せて、その首筋に顔を埋める。

細い首からはとても良い香りがして、手は自然と帯に伸びて外しにかかったが――


どん、と身体を強く押されて離されると――目が覚めた。


「…夢…」


寝ぼけながらむくりと身体を起こした朔は、部屋の外でばたばた足音がして離れていく音に首を傾げる。

障子は少し空いていて、この部屋に出入りできるのは雪男と朧くらいなもの。

誰かがここに入ったのか、と思いながらまた身体を横たえると、二度寝に入ってしまった。


「な…何よ…!月の馬鹿…!」


朔の部屋から足早に離れていく女――凶姫は、唇に残る感触に顔を真っ赤にしながら客間に戻って襖を閉めるとへたり込んだ。


――とても強く優しい口づけ。

その唇の感触が、いつまでも残っていた。