彼氏じゃないからできた

しかし、本当のところわたしは知っていた。


昨日の甘い夜は、彼が「彼氏」という立場じゃなかったからこそだった。


わたしは彼と遊ぶことで、どこか悪いことをしているような気分に、浮気めいた気分に浸っていたのかもしれない。


いっそ、彼が割り切った関係だと思ってくれれば楽だった。


そうではなかった。


彼はわたしと、よりを戻そうとしている。


でも。


彼ともう一度付き合ったところで、昨日の夜みたいな甘さや苦さが訪れるとは思えなかった。


結局のところ、わたしは彼を弄んだのだろうか。



ううん

明日はあそばないし

あなたと付き合うこともできない

ごめんね。







わたしはスマホの電源を切った。


そして。


昨日の夜のことだけを思い出しながら、目を閉じた。


素敵な夜の記憶は、黒々とした何かを隅に追いやった。


あと10日間の夏休みは、それだけでやり過ごせそうな気がした。





 Fin.