母さんはロボットだった。だがいくら発達したロボットでも子供は産めまい。ならば母さんと父さんの子のはずの僕は何者なんだ?
 「僕も、ロボットなの?」
 「違う」
 久しぶりに父さんが口を開く。
 「お前は捨て子だ。橋の下に捨てられているところを俺が拾った。大方どっかの尻軽が産んだはいいものの、育てられないと思って捨てたんだろう」
 「どうして僕を拾ったの?」
 黙る父さん。
 「ねえどうし」
 「母さんはもとは人間だった」
 僕の言葉を遮って、語調を強めて父さんは言った。
 
 「交通事故で死んだんだ。俺は母さんを愛していた。死んで欲しくなかった。でも死んでしまった。ならば生まれ変わらせてやろうと思った。当時作っていたロボットに、母さんの脳を移植した」
 現代の科学をもってしてもありえないようなことを、父さんは淡々と述べていく。
 「記憶は戻ったよ、記憶はな。どれだけ調整しても、感情だけは戻らなかった。あいつも女だ、子供でもできたら母性でもめざめて、本の少しでも感情が芽生えてくるんじゃないかと思った。そう考えたある日の帰り道、俺は橋の下で赤子を見つけた」
 そこまで言って、父さんは初めて僕の顔を見た。
 
 「お前は母さんを、母さんであるためだけに存在する道具なんだよ」
 
 冷たい父さんの声が、冷たく僕の鼓膜に届く。
 「ねえ、父さん。僕いい子だったでしょ?外に出るなって言われたから一度も出た事ない。ごはんつくってって言われたら作る。今だって、母さんに言われたから洗濯するところだったんだ。それで今夜はね、ごちそうを作るつもりだったんだよ。父さんと母さんに、喜んで欲しくて」
 これまで思っていたことを、いっぺんに吐き出す。
 「何が言いたい」
 父さんの声は冷たいまま。
 拳を握り、勇気を出して真に思っていたことを告げる。
 
 「僕は!父さんと母さんに、愛してほしかっ」
 「できるわけがないだろう」
 
 ぴしゃりと言葉を切られる。
 
 「言っただろう。お前は母さんを人間に近づけるための道具だ。だがお前がいても母さんは変わらなかった。行動のひとつに『母のつとめ』が追加されただけだった。そもそも母さんが生きていたらお前なんて拾ってすらいない。母さんが愛さないお前を、なぜ俺が愛さなければならない?その上もう、ただの機械と化し俺を愛してくれない母さんなど俺は」
 
 最後まで聞く前に、僕は家を飛び出していた。
 反抗なんてしたらきっと嫌われちゃう。そう思っていうことを聞いて生きてきた。きっといつかそれが実を結んで、いい子だねって褒めて欲しくて。
 愛して、欲しくて。