いろどりみどり

 感心はしても、関心はもてなかった。テレビを消して、食器をかたづける。ぴかぴかになった食器を戸棚にしまったら、今度は洗濯だ。洗濯機のある洗面所に向かい、服を放り込む。洗剤の量をめもりぴったりに合わせ、洗濯機に入れる。あとはスイッチを押して、
 
 ガチャン!ドタドタドタ……
 
 突然の物音に、反射的に玄関のある方向を見る。足音の感じからして、父さんなのは間違いない。すこし様子を見に行くか……
 ガラッ。
 父さんが洗面所のドアを開けた。立ち尽くす僕に父さんは一言。
 「母さんはどうした」
 質問の意味がわからない。とりあえず知っていることを言う。
 「仕事に出かけたよ。いつもどおり」
 「何時頃だ」
 「父さんが家を出たすぐあとだよ?」
 「母さんが仕事へ行くようになったのは、いつからだ」
 「半年くらい前じゃないかな。父さん聞いてないの?」
 父さんからの質問攻めに、次第にこちらも不安になってくる。父さんは無言で歩きだし、テレビをつける。僕もあとを追った。テレビに映っているのは先ほどのニュース番組。だが報道の内容は……
 
 『速報です。○○県××市の街中で人工知能を持ったロボットが暴れているとの情報が入りました。中継が繋がっています、西野さん』
 『……はい、こちら××市上空』
 『現場の状況をお願いします』
 『……はい。さきほどひとりの女性が街中で暴れだしたとの通報があり、警官が駆けつけたところ、建物の壁や、さらには電柱までもが破壊されていました。その場には40代前半と思しき女性がおり警官が声をかけたところ、女性の顔はロボットそのもので、尚現在も、警官の声を無視して破壊活動を続けてい』
 
 そこから先の音声は、頭に入ってこなかった。テレビの実況で写っていたのは顔面がロボット、身体は女性という奇妙な姿。散々暴れていたせいか服はぼろぼろだが、僕にはわかる。あの服を着て家を出るところを、僕はこの目で見ているのだ。
 
 「母さん」
 
 震える声で口に出す。
 「ねえ父さん。あれは母さんでしょ?どういうことなの?父さんが帰ってきたことと、なにか関係があるの?」
 父さんはなにも答えない。考えたくない。それでも僕の頭は答えを導き出していた。人形のようにその場に立ち尽くす父さんのかわりに、答えと、新たに浮かんだ疑問を投げつける。
  
 「昼間ニュースを見たよ。10年前に人工知能ロボットがつくられていたって。母さんは、そのロボットなんでしょ?じゃあ父さんは何?母さんの開発者?母さんがロボットなら、僕は何者なの?」