「ここが貴方の部屋なのね。予想していたとおり随分と殺風景。では、例のお宝ってやつを見せてもらおうかしら?」
 僕は後ろ手に部屋の鍵を静かに閉める。璃華様には気づかれていない。
 「はい。ただいま」
 ひとこと告げる。同時に床を蹴った。
 驚いて声も発せず動きもしない璃華様の美しい顔、その中にある美しい宝石のような目に、手を___
 
 「愛しておりますよ、璃華様」
 
 「あ……ははは……あはははははははっ!!僕はついに手に入れたんだ!!璃華様の!お美しい目を!!」
 喜びのあまり発狂しかける僕の手のひらには、抉りとった璃華様の眼球がふたつ、転がっている。璃華様は血が滴る空洞を両手で抑えていた。てっきり叫ばれるかと思ったが、一瞬小さな悲鳴をあげたのみであとは一言も発さなかった。あまりのショックで叫ぶ気持ちもなかったのだろうか。
 
 「あはは、ああ、最高の気分だ。でもこうなったらもう、目だけでは飽き足らない。いっそ」
 璃華様のネグリジェを破き、中に手を突っ込む。探ると、ひんやりとした硬い感触があった。掴んで引き抜き、露になった璃華様の胸に当てる。
 「殺して。すべてを僕のものにしてしまおうか」
 過保護な父親から預けられている、護身用のナイフ。娘の命を護るべきものが、まさか命を断つものになるとは思わなかっただろう。
 
 「さようなら、璃華様。いいえ、違う。これからはずっと一緒ですね。貴女を誰の手にも触れない場所へ連れていって、ふたりで幸せに暮らしましょう」
 言い放ち、ナイフを握った右手を高く掲げ、振り下ろす。白い柔肌にナイフが刺さるまであと1センチ。そこで、時間が止まったように感じた。
 視界に入ってきたのは、笑顔だった。殺される間際に璃華様は、空洞になった目を細め、微笑んだのだ。聞こえた言葉。それは
 
 「愛しているわ。陸」