ふと気づく。そうだ、今は千載一遇のチャンスなのではないか?
 普段璃華様は、お友達や女性の使用人を常にそばにつけている。心配性の、璃華様のお父上がそうさせているのだ。だが今日は、お付きのものが誰もいない。僕は璃華様のお付きになったことはないから、気まぐれで遊び相手に選んだのだろう。文字通り「たまには遊んでやろう」といった気持ちで。
 
 「……お嬢様。実は僕とっておきのお宝をもっているのです。金銭的な価値はありませんが、僕にとってはとても大切なもので」
 璃華様は足は止めぬまま振り返り、興味深そうに僕を見上げる。
 「ふうん、そんなものがあるのね。それで?」
 「せっかくの機会ですし、お嬢様にお見せしたいのです。気に入っていただけるかはわかりませんが……」
 「いいわっ見させてもらいます。感情の薄そうな貴方にそんな大事なものがあるんなら、是非見てみたいわ」
 璃華様から見て僕はそんな人間だったのか……
 いや、無意識のうちに彼女を慕う気持ちを押さえつけるために、そういう人間を演じていたのかもしれない。
 
 「ではこちらに。お嬢様」
 璃華様を僕の部屋へと案内する。彼女はわくわくとした面持ちで僕の後ろをとことこと着いてくる。ああ、僕はこれからとっておきのお宝を手に入れるのだ。