わりかし有名なこの話。知ってるかい?長ァく生きた猫は尻尾が二又に分かれて、猫又なんていう妖怪になるんだ。
 猫又ってのは尻尾が分かれるだけじゃアねェんだぜ。個体差はあるが、仮にも妖怪。なにかしらの力を身につけてる奴が多い。
 おいらもそんな妖力をもった猫又のひとり……いや、1匹でねェ。だがおいらは他の猫又どもとは一線を画す力を得たのさ。
 
 猫又になった奴は、だいたいは人間だのなんだのってほかの生き物に化けられる、化け猫になるのが殆どなのさ。化ける以外の力を持つ猫又なんておいらは知らないねェ、おいらを除いて。
 おいらはな、“ 奇跡”を生み出すことができるのさ。あん?ピンと来ねェって?仕方ねェ、具体的な話をしてやらァ。
 
 たとえばそうだな。ろぼっと、とか言ったか?それの頭ン中に人間の脳みそを入れて、ろぼっとを人間と同じように動かすなんて話、信じるかい?はは、信じられねェよなァ。これは本当にあった話なんだぜ。
 ま、普通に考えりゃ無理な話だ。なんせおいらが奇跡を起こしたおかげで、そのろぼっとは人間になることが出来たんだからなァ。
 ちなみにこの話にはまだ続きがあるんだぜ。聞きてェか?よし、聞かしてやろう。そのろぼっとはな、頭ン中に入れた脳みその持ち主の記憶がしっかりとあったんだ。会話もちゃんとできる。すげェと思うだろ?この脳みそ移植をしたのは男だったんだが、こいつの天才っぷりとおいらの“ 奇跡”がありゃア朝飯前よ。
 これだけでもすげェってのに、男はそれじゃ満足できなかったんだな。記憶だけじゃなくて感情をもろぼっとに芽生えさせたかったんだと。参るよなァ。二兎を追う者は一兎をも得ずなんてことわざを無視しようとしやがった。乗りかかった船だと思っておいらも協力してやったけどよ。ま、結果的にはろぼっとを失うハメになったんだがな。
 
 はー、長々と話しちまった。いいのかいアンタ?地球最後の日に猫又なんかとベラベラ話し込むなんてよ。まさかおいらに奇跡を起こさせて地球滅亡を阻止って考えじゃアねェだろうな?流石に無理だぜ、規模がでかすぎる。
 ……あァ?礼?なんのだ?おいらとアンタ、どっかで会ったか?ん、なんだこりゃ写真?
 ……ほーォ、こいつはたまげたな。整形ってやつか?声も顔も別人じゃねェか。それよりアンタ、なんでおいらが手を貸したって気づいた?これまで幾度と無く気まぐれに奇跡を起こしてきたが、バレたことはなかったぜ。
 ……勘ねェ。そんなもんで気づくかね。仮に気づいたとしてもよくおいらを見つけ出したなァ。アンタひょっとしたらおいらみたいに、生物の道から外れでもしたのか?なんてな。
 さて、そろそろ時間みたいだぜ。いやァ、いい人生だったよ。結ばれるはずのない男女を死なすことで幸せにしたり、子を求めていたやつに捨て子を拾わせてみたり。楽しかったねェ。100数年生きたが悔いはねェよ。じゃあな、アンタ。あの世では嫁さんと仲良くやれよ。ついでに娘さんともな。
 
 
 奇跡を操る『猫又怪奇譚』
 
 いくらおいらでも全人類を救うなんて無理だね。別の形で救うことなら、できるかもしれねェけどな?