いろどりみどり

 俺は生きていた。だがそれを認識した瞬間、背中の痛みを思い出す。両側の肩甲骨の真下に感じるふたつの痛み。それはちょうど人間の手のひらくらいの範囲で。
 
 「……智鶴っ!!!」
 
 愛しい彼女の名を呼び振り返る。しかしそこには、紅く染まったトラックと、かつて彼女だったものが散らばっているのみだった。
 
 そこからはよく覚えていない。病院に行ったり警察から質問を受けたのは多少覚えているが、どんな問答をしたのか、その結果どうなったのか、そういったことは完全に記憶から抜け落ちていた。
 その上で今わかっていること。それは、病気で両親を失ったばかりで身寄りのない智鶴の遺体は俺が引き取ったということ。そして、智鶴が死んだのは、トラック運転手のせいでも智鶴自身のせいでもなく、俺のせいだということ。
 俺が考え事をしなければ、俺が赤信号に気づいていれば、智鶴は死なずに済んだのだ。
 その事実を認識するたびに、吐き気が込み上げ、何度もトイレに駆け込んだ。胃の中が空っぽになろうと喉が炎症を起こし出血しようと、何度も何度も吐いた。罪悪感と自己嫌悪から逃れるかのように。何度も何度も吐いて、そして泣いた。
 
 数時間もの間それを繰り返し、ようやく気持ちがほんの少し落ち着いてきた。彼女の遺体にあらためて目を向ける。まるで眠っているかのようだ。いや、本当は眠っているのではないだろうか。実は事故なんてものは悪い夢で、目の前にいる彼女は昼寝をしているだけなのではないだろうか。
 『智鶴は死んだ』。その事実を理解しながらも、現実逃避の考えが頭から離れない。これが、俺が狂い始めたきっかけなのだろう。いつのまにか流れていた涙とは裏腹に現実逃避を続ける脳は、いつしかこんな考えを抱くようになっていた。
 
 『眠っているのなら、起こしてやらないと。』
 
 そこから行動に移すのは早かった。研究室から材料をあらかた持ち帰り、狭い部屋になんとか配置した。俺が研究していたのは、当時では珍しい人口知能ロボットを作り人々の役に立てる、というものだった。このロボットを使って、智鶴を起こして__生き返らせてやらないと。
 これができるのはこの世で俺だけだ。最も発展したロボットの研究をし、智鶴を死なせてしまった責任をもつ、俺だけができることだ。幸い医学も嗜んでいる。俺は狂っているのかもしれないが、頭はいいんだ。これくらいやってやるさ。待っていてくれ、智鶴。お前の目が覚めたら、そのときは結婚しよう。遅くなってすまない、そうして謝る俺を、いつもみたいに笑って許してくれ。
 さあここからが本番だ、あとは智鶴の脳を、この機器へ移植すれば__
 
 
 『死んだ恋人を蘇生するだけのお話』
 
 この話の末路を、あなたはもう知っているはずです。
 
 なあ、なんで教えてくれなかったんだ?この先には、不幸しかないって。あんたたちは知ってたんだろ?俺たち“家族”の末路が、どうなるのかを。