空気を切り裂くような悲鳴が聞こえ、ようやく僕は足を止めた。目の前には破壊された街。そしてその犯人である、母さんがいた。母さんの目の前には怯え切った小学生くらいの少女。少女は尻餅をついて、ただ母さんを見つめていた。恐怖で動けないのだろう。
 
 「アイ、シ」
 
 「えっ?」
 母さんの口元から、機械的な音声が聞こえた。
 「アイシテ。アイシ、テ」
 
 ああ、そうか。
 母さんが暴れだした原因ってもしかして。
 母さんは感情を取り戻していたんだ。ただし、表現方法は思い出せていなかった。
 感情を改めて知った以上、父さんの愛が冷めていることにも気づいていたのかもしれない。そうして閉じ込めて閉じ込めて、閉じ込め続けてきた感情が溢れた結果がこれなのかもしれない。
 だってほら、さっきの少女。よく見たら、少女は無事で母さんの背中に瓦礫が積み重なっている。母さんは巻き込まれた少女を守ったのだ。
 母さん。きっとあなたは優しい人だったんだね。だからこんな姿になっても、人を守れるんだ。ああどうしよう。瓦礫が背中に刺さってしまってる。動きが鈍くなっていく。言わなきゃ。聞こえなくなる前に、早く。
 ねえ母さん。僕はね。
 
 「大好きだよ。母さん」
 
 伝えたい一心で、上から降ってきた瓦礫には気づけなかった。
 
 
 『愛されたかった“家族”の話』
 
 ねえ母さん。母さんは僕のこと、好き?