15歳、今この瞬間を

「ゎ……え…⁈」

それが佐久田くんの腕の中だとわかったのは、笑顔と同じあたたかな匂いがしたから。

でも、なぜ今このタイミングで佐久田くんに抱きしめられているのか…そんなことを考える余裕など、今のあたしにはなかった。


「あるじゃん…」

「え……?」

「夢なんだろ?夢希の」

耳元ではっきりと聞こえたその声は、まっすぐにあたしを貫いた。

「あ…」


"今まで生きてきて、夢も希望もないのがあたし"

思い出したのはーーー自分の声。

転校2日目、佐久田くんと名前のことで言い合った時のものだった。

「わ…忘れてた。昔のことすぎて」

それにしてもよく思い出したな……てか、いつから忘れてしまっていたのだろう。

苦笑いをするも、佐久田くんの腕の中にいては意味のない表情だった。

「夢希らしいな(笑)」

「佐久田くん…苦し……」

佐久田くんの腕の力がさっきよりも強くなって、苦しさ半分ーーーあとの半分は、不思議と心地よさだった。